四百八十六話 底を見せない奇襲
(ふ~~~ん……僕にそういう視線を向けてくれるんだ。非常に光栄だけど、そうくるなら……様子見なんてしてる余裕はなさそうだね)
まだ対戦相手の正確な実力は解らない。
しかし、このトーナメントの参加者に選ばれるだけの実力がある。
少なくとも……自分はアラッドの様にわざわざ相手の土俵に上がれるほどの実力はない。
それを何度も心の中で呟き、戦意を整える。
「二人とも、あまりエキサイトし過ぎないように…………始めっ!!!!!」
「「ぅぉおおおおおああああああああああっ!!!!!」」
両者とも強化系のスキルを使用。
加えて、武器には火を……雷を纏い、事前に考えていた通り、最初からフルスロットル。
『こ、これは!! 先程の試合とは違い、両者様子見は一切無く、最初から全力のぶつかり合い、ガチバトルが展開された!!!!!』
起承転結がある試合を観客たちは好む。
最初から全力を出さない試合はつまらない?
それはそれで見応えがあるからこそ盛り上がるのだ。
だが……選手が最初からアクセル全開、フルスロットルでぶつかり合う、熱過ぎる戦いが嫌いなわけではない。
それはそれで好物であるため、観客たちは大盛り上がり。
(くっ!!! 私の連続の突きを、こうもあっさり、躱すとはっ!!)
(アラッドの拳打よりは速くない!! でも、このリーチの差は、少し厄介だね!!!)
レイピア使いは突きだけにステータスを振っている訳ではなく、突きに集中し過ぎて体勢が崩れ、大きな隙を生むことはない。
加えて、使用しているレイピアによる突きは確かに恐ろしい。
しかし……完全に突きという技に特化したレイピアではない為、下手に突っ込めば手痛いカウンターを受けてしまう。
(何とか、リスクなしで懐に入りたいところだけど……いや、ここで、下手に底力を見せるのは、良くないね)
この時、スティームは既に次の試合について考えていた。
それはこの戦いに全てを捧げようとしているレイピア使いからすれば侮辱に近く、客観的に見ても油断に繋がる感情。
だが、スティームは一つの手があったからこそ、真剣に次を考えていた。
(となれ、ば!!! この人の呼吸を、リズムのを見極めないとね!!!!!)
下手に表情に心が現れれば、考えが読まれる可能性がある。
その可能性を考慮し、出来る限り表情を変えず、いかにもフルスロットルで動き続け、そのまま倒すという表情を貫く。
(………………今、ここ、この距離!!!!!!)
リズム、タイミング、呼吸……全てを把握した瞬間、スティームは双剣の片方を投げた。
「ッ!!!???」
突然の投擲攻撃に驚愕の表情を浮かべるも、咄嗟の判断でレイピアを盾にして直撃を回避。
「なっ!!!???」
当然、一投だけで終わる訳がなく、レイピア使いの男がやや体勢を崩すと、即座に二投目が放たれた。
この一撃に関しても何とか無理矢理体を捻って回避。
その反射速度は流石と言えるものだったが……飛んできた凶器を避けるだけにとどまり、次の動きへの準備がまるでできていなかった。
「ふんっ!!!! ぜぇあああああッ!!!!!」
体勢が崩れた瞬間、一気に懐へと侵入し、アラッド直伝の徒手格闘を繰り出し、一瞬で形勢逆転。
蹴りが、拳がレイピア使いの体にめり込み、響く。
「ぬっ、ああああああっ!!!!」
形勢が逆転されたにも関わらず、体勢が完全に崩れて倒れることを拒否し、意地でも落とさなかったレイピアを振るう。
決して折れない、倒れない不屈の闘志。
しかし、この時ばかりはその姿勢は悪手だった。
スティームはアラッドから徒手格闘について教わったが、まだ逃げる相手……転がる相手への追撃方法までは教わっておらず、主に教わった内容は立っている相手への攻撃方法。
完全に立っているとは言い難い体勢ではあるものの、十分過ぎる的であることに変わりはなかった。
「がっ!!??」
少々体勢を崩しながらの右フックが肩に命中し、遂に倒れてしまったレイピア使い。
ここで空いている手で地面を押して回避……という手段取れればギリギリ回避出来たかもしれないが、実戦時の思考はそう簡単に即座に成果へと辿り着かない。
「ぉっ、あ……っ!!!???」
倒れた相手への攻撃方法はまだ教わっていない。
そして……スティームはアラッドではないので、その競技は知らない。
それでも、倒れ伏した相手への攻撃手段として、誰しもが真っ先に思い付く攻撃方法があった。
スティームが止めの攻撃として放った攻撃は……サッカーボールキック。
「そこまで!! 勝者、スティーム!!!!!!」
双剣をぶん投げ、スティームが徒手格闘に戦闘スタイルを変えてからあっという間に決着がついた。
それまでの間、観客たちはまさかの行動に息を飲んで固まっていた。
「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!」」」」」」」」」」
当然ながら、盛り上がらない訳がない。
多くの観客たちには、スティームが己武器を捨てて虚を突き、五体一つで突っ込まなければ勝てない。
そんな最後の最後まで熱いバトルだった褒め称える。
ただ……実際は観客たちが思っている様な内容ではなかった。
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