四百八十四話 オッズに差はあれど
「アラッドから見て、どっちが勝つと思う?」
「……どう見ても、騎士の方だろ。冒険者の青年が弱いとは言わないけどな」
第一試合が始まってから既に数分が経過している。
激闘……傍から見れば、そう思えるかもしれない。
しかし、戦闘力だけではなく視る眼も備わっているアラッドからすれば、どちらが有利かは一目瞭然。
「スティームは、冒険者の方が勝つと思うか?」
「申し訳ないけど、アラッドと同じ考えだね。個人的には冒険者側に勝ってほしいと思ってるけど、あの騎士……本当に強いよ」
「そうだな……」
お世辞ではなく、二人の眼から視ても騎士の強さは確実に頭一つ抜けているレベル。
(身体能力では……まだレイ嬢の方が上だな。しかし、技術面に関してはややあの騎士が勝っているか? それに、決して戦闘力が低いわけではない冒険者が相手だというのに、淡々とした表情で試合を進めている……メンタル面に関してもやや上かもしれないな)
そこまで考えたところで、ある疑問がアラッドの中に浮かんだ。
(そういう役割……なのか? いや、まだ俺やスティーム以外の面子がどれだけ戦えるのか視てみないと解らないな)
「そこまでっ!!!!!」
アラッドがあれこれ考えている内に第一試合が終了。
勝者は二人の予想通り、騎士の青年。
「ところでアラッド、賭けにいくかい?」
「……止めとこう」
「何故だい? まさか試合に勝つ自信がないなんて事は言わないよね」
「当たり前だろ。勝つ気満々だ。ただな……おそらく俺が勝ったところで、増えるのは一割……もしくはそれ以下だろ」
自分で言うのは恥ずかしい。そう思いながらも、アラッドが口にした言葉は現実となって表れている。
次の試合に賭ける者たちがあまりにもアラッドばかりに賭けている為、正直商売にならない。
それはもう、対戦相手の冒険者が不憫に思えるほどの差だった。
「あぁ~~~~……うん、多分そうなってると思う」
「そうだろ。まっ、第一試合が全部終わったら賭けるとするかな」
賭けの締め切り時間が終わるまで軽く体を動かしながら過ごす。
そして従業員から試合が始まると伝えられ、ゆったりとした足取りでリングへと向かう。
「あの、アラッドさん」
「ん? なんですか」
「その……今回の試合は、どのようにして戦うのですか」
闘技場の従業員は思わず尋ねてしまった。
アラッドは表舞台に立つまで……そして大会を終えるまではロングソードの使い手というイメージが強かった。
しかし、レドルスに訪れてからは徒手格闘、更には投げで多くの敵を倒してしまっている。
それらの情報から、次はどのようにして勝つのかというワクワクをファンに与えていた。
「……自分が退屈しない戦い方をします」
「ッ、なるほど。答えて頂き、ありがとうございます」
見送るその背中は、王者の風格を漂わせていた。
(あの背中が負ける姿など、全く想像出来ないな)
従業員は仕事に戻るのが惜しいと思いながらも、職務を優先。
「あんたがあのアラッドか」
「多分、そのアラッドで合ってるぞ」
アラッドの対戦相手は……非常に引き締まった筋肉を持つ……女性。
(世の中には、アマゾネスって女性だけの民族がいるんだったか? 加えて俺に負けない身長にマジットさんよりも太い筋肉……巨人族の血が入ってたりするのか?)
なにはともあれ、退屈しない相手だと本能が告げてくるため、自然と笑みが零れる。
「ふっ、試合前に笑みを浮かべるなんて、随分余裕だね」
「済まない。あなたを侮っている訳ではない。ただ、これから出来る戦いの内容をイメージすると、ついな」
「……褒め言葉と受け取っとくよ」
対戦相手の女性は、決してアラッドの実力を信じていないわけではなかった。
耳にしていた噂話はさすがに誇張が含まれていると思っていたが……実際に対面しないと解らない強さ、厚みがある。
(噂に嘘偽りなし、みたいね)
だからといって、彼女は縮こまることはなく、寧ろ直ぐに気持ちを切り替えた。
相手は強敵も強敵であり、超難敵。
であれば……己の全てを賭してでも勝ちにいかなければ、その命に一度も触れられないかもしれない。
「ったく……お互いに、ルールは忘れるなよ」
強烈な肉体美を持つ女性冒険者の熱過ぎる闘志に気付きながらも、止めようとは考えない。
それ程までに、審判もアラッドの実力を信用していた。
「それでは……始めぇえええええええっ!!!!!!」
「「ッ!!」」
試合開始の合図と同時に両者は地面を蹴り、ジャブの刺し合いが始まった。
まさにガトリング砲さながらの連続ジャブを互いに繰り出しては、最小限の動きを避ける。
初っ端からフルスロットルではないが、観戦している客たちはそれだけで大盛り上がり。
一部はアラッドが対戦相手を手のひらの上で転がして勝利すると予想しており、その予想は良い意味で覆された。
(身体能力だけに頼らない、正確で鋭いジャブ……師が良かったのか、こいつのセンスが抜群過ぎるのかは知らないが、あの騎士並みに楽しい相手であることに、違いはないな!!!!!)
数十秒後にジャブの刺し合いは終わり、本格的な打撃戦が始まった。
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