四百七十九話 研ぎ澄まされる早さ
(センスがあると言うか、集中力が研ぎ澄まされるまでの時間が極端に短いな)
集団戦の訓練を初めて数日……当然ながらアラッド、クロ、ファルは本気を出して攻撃は行っていない。
しかし、物理攻撃を行うだけではなく、タイミングをズラして遠距離攻撃を放つ。
アラッドだけは器用に搦手などの攻撃手段も行うが……スティームはそれら全てに的確に反応し、反撃まで行う。
(雷魔法は、反応速度とか全体的な速さに関して相性が良いって聞くが、相性が良いだけであって使いこなせるか否かはまた別問題なんだが……スティームの場合、無意識にそこら辺も使いこなしてる、のか?)
アラッドは神童を越えて怪物ではあるが、スティームは神童という枠から零れ、ただの天才には成り下がっていない。
「よし、一旦休憩にしようか」
「はぁ、はぁ、はぁ、そう……だね」
(集中力が研ぎ澄まされてる分、疲労度は大きいみたいだな)
冷えた水を渡し、アラッドは友人の為になるアドバイスを考える。
「なぁ、スティーム。俺たちと模擬戦を行っている最中、ぼんやりと周囲の状況は把握出来てるんだよな」
「そう、だね。一応、それなりには」
「……それなら、もう少し行動の優先順位を意識して動いた方が良いかもな」
「…………なるほど。確かに、ちょっと全部の動きに対応しようと頑張り過ぎてたかもしれない。というか、わざわざ飛んでくる攻撃を双剣で対応する必要はないよね」
軽くアドバイスを受けただけで、直ぐに改善点に気付くスティーム。
アラッドたちの攻撃に一応全て反応出来ていたからこそ、今までその無駄に気付かなかった。
「相手がBランクモンスターばかりとかならともかく、今回の勝ち残り戦に限っては、もう少し余裕を持っても良いかもな」
トーナメントの予選で行われる勝ち残り戦には、推薦などで本選の選手に選ばれずとも、誰彼構わず参加できるわけではない。
年齢は規定通りニ十歳以下であり、一定以上の戦闘力を有する者しか参加できない。
「やっぱり、試合が始まったら動き回るべきかな?」
「他の参加者たちが囲ってくるを狙って、同士討ちさせるのもありだと思ってたけど……そうだな。まず足元か頭上を通って包囲網から抜けて、駆け回りながら戦うのも悪くないな」
集中力が刻限まで研ぎ澄まされていても、周囲の状況を把握出来る冷静さもある為、うっかりリングの外に落ちてしまうという失態を起こすことはない。
「ちなみに、アラッドはどう戦うつもりなんだい?」
「俺は……そうだな。全員押し出しすれば良いかな。それが一番単純で怪我人を出さなさそうだし」
決して参加者たちを嘗めている訳ではないのだが、どう考えてもオルフェン並みの実力者が多く参加してるとは思えない。
「そのセリフ、参加者たちの前で言ったらダメだよ」
「解ってる。俺もそこまでバカじゃない」
確かにアラッドはそこまでバカではない。
しかし……喧嘩を売られてしまうと、ポロっと本音が零れてしまう可能性はそこそこ高い。
「……スティーム、あっちからそこそこ大きい戦闘音が聞こえるんだが」
「そうだね。僕の耳にも入ってきたよ……ちょっと行ってみる?」
「おぅ」
戦うことがそれなりに好きなアラッドだが、戦いを観戦することもそれなりに好きであるため、こっそりと足音と気配を消しながら接近。
「ウォオオオラァアアアアアアアアアッ!!!!!」
戦闘音の中心地には、一人で獣心を解放しながら戦うオルフェンがいた。
対戦相手はCランクモンスターのワイルドベア。
剛腕から強烈な裂爪を繰り出す恐ろしい熊なのだが……二人が戦場近くに駆け付けた時には、既にボコボコ状態だった。
そして剣技スキル、バッシュがワイルドベアの首に直撃。
見事ワイルドベアの首を綺麗に切断された。
ソロでCランクモンスターを一方的にボコボコ。
それ自体はとても優秀な内容なのだが……問題は現在、オルフェン獣心を解放しているという状況。
「ふぅ、ふぅ……ァアアアアアアアッ!!!!!」
声を荒げ、地面にひび割れが入るほどの拳を叩きつける。
「……ふぅーーーーー」
結果、オルフェンは獣心に飲まれることなく、元の精神状態に戻った。
「あれ? 二人は、確か……」
「よぅ、良い戦いを観せてもらった。お礼にそいつの解体手伝うよ」
「あ、ありがとう」
突然の申し出に困惑するも、アラッドが悪い人間ではないと解っているため、ありがたく手を借りた。
「そういえばさ、オルフェンは今度開催されるニ十歳以下の若者だけが参加出来るトーナメントに参加するのか?」
アラッドとしては、また戦える機会があるなら、それはそれで楽しみ。
スティームとしては少し嫌だな~という気持ちがありながらも、同世代の強者と本気で戦える良いチャンス。
「えっと、俺はその戦いには参加しないよ。というか……二人はあのトーナメントに参加するの?」
「俺は十五歳で、スティームは十八歳だからな。全く問題無いだろ」
「うん、それはそうなんだけど……あっ、でも二人とも確か貴族の令息、なんだよね」
「一応な。別に次期当主とか次期当主がなくなった時のスペアとかじゃないから、そんな偉い立場の人間じゃないけどな」
「僕も似た様な感じだよ」
本人達にとってはそうであっても、オルフェンからすればとりあえず偉い人? という認識だった。
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