四百七十七話 休日
闘技場での十連戦が終わった翌日、アラッドとスティームは直ぐにレドルスを立つことはなく、しばらくの間滞在することにした。
「そろそろ休憩にしようか」
「はぁ、はぁ……そうだね」
冒険者ギルドの訓練場で模擬戦を終えた二人は地面に腰を下ろし、冷えた水を飲み干す。
「ふぅーーーー……やっぱり、アラッドの魔力操作は反則だね」
「水を冷やしただけだろ。水魔法のスキルを習得してれば、訓練次第では誰でも出来る筈だ」
「僕の知る限り、誰でもは出来ないけどね」
記憶を掘り返しても、スティームの友人知人の中で、水魔法を習得している者たち全員がアラッドと同じことは出来ないというのが事実。
「……だとしたら、水……液体を冷やす訓練をしてなかったのかも。一口に魔力操作を極めると言っても、技術の道は一つじゃない」
「まるで仙人みたいな格言だね」
「勘弁してくれって。ところで……あれだな、ここ最近の模擬戦はかなり力が入ってるな」
「まぁ、バレるよね」
別にそんなことはないと、否定するつもりはない。
「同世代でオルフェンみたいないると知れば、熱くなるものだよ」
何度か脳内でオルフェンとの戦闘をイメージするが、明確な勝敗は付かない。
スティームの実力であれば先日の挑戦者、一番から九番の冒険者であれば全員勝てるビジョンが浮かぶが、相手がオルフェンとなると……苦いイメージになる。
「やっぱり獣心の解放がネックか?」
「そうだね。普段の動きも、真っ当な対人戦ばかりをしてきた僕からすると、かなり厄介だしね。獣心が解放されれば、更にその動きに磨きがかかる」
隙がある様に思えても、実際にその隙を狙えるかどうかはまた別の話だった。
「……なら、動きを再現してみようか?」
「…………そう、だね。アラッドなら出来てもおかしくないよね」
アラッドだから、という理由で驚くのを止める。
しかし、アラッドとしては実際にその身で体験したからという頭おかしい理由で再現出来るわけではない。
「何を考えてるのかなんとなく解るけど、俺は獣っぽい動きは子供の時に練習してたからな」
「け、獣っぽい動きを、練習?」
真っ当な令息であるスティームからすれば、ちょっと理解出来ない言葉だった。
「いや、練習って言うのは変……大袈裟か。息抜きでそういう動きで敵を攻めるのも面白そうだなって思って」
「……発想が異次元だね」
「寧ろ大概の人たちは発想が固いと思うんだけどな。だって、毎日何時間も同じ武器の訓練をしても、絶対にその訓練に費やした時間分、技術力が上がるとは限らないだろ」
「それは……そう、だね」
何十時間、何百時間と訓練を積み重ねた先に得られる技術がある!!! という考えを否定したわけではない。
ただ、アラッドとしては自身を追い詰めて追い詰め続けるだけが訓練ではないと思っている。
そして十数分後、休憩を終えた二人は再び模擬戦を開始。
(っ!! 思ってた、以上に! 完成度が、高過ぎる!!!)
アラッドが使用する武器は主に木製の双剣と両足、後は肘。
それらの武器を駆使してスティームの周辺をちょろちょろと動き回り、変則的な……時には大胆な攻撃を仕掛ける。
結果、足を刈られてアラッドの勝利で決着。
「……もしかしてだけど、アラッドもオルフェンみたいに獣人族の血が流れてたり、する?」
「そういう話は親から聞いたことがないから、多分入ってないと思うぞ」
嘘を言ってるようには思えない。
しかし、実際に模擬戦で戦ったスティーム。
少し離れて観ていた同業者たちには、ほんの少しも獣人族の血が流れていないようには思えなかった。
「どっちに賭けるか迷うな」
模擬戦まみれの一日を過ごした翌日、二人は闘技場を訪れていた。
雨が降っていない日は、大抵何かしらの試合が行われている。
二人は本日戦う戦闘者たちの情報を集め、少々悩んでから同じ選手に金貨一枚ずつ賭けた。
「どっちもCランクぐらいの実力はあるな」
リングに現れた片方は槍、もう片方は双剣。
審判が開始の合図を行い、速攻で勝負が終わることはなく、白熱した戦いが行われている。
「双剣使いの方に賭けて正解だったね」
「まだ試合は終ってないが……七対三ぐらいで有利だな」
武器のリーチはあ槍使いの方が圧倒的に有利だが、その差を理解している双剣使いは、非常に捌くのが上手い。
槍使いも負けじと軌道を変えたりと工夫を凝らすも、距離の差はじりじりと縮まっていく。
試合の勝敗の形として、リングの外に落ちたら負けであるため、いつまでも後ろに下がってはいられない。
(無理矢理力で捌くんじゃなくて、しっかり体も動かして無理なく捌いてる……本当に上手いな。このままいけばと思うんだが……)
心のに残る不安は、現実に現れた。
「ぬんっ!!!!!」
双剣使いが好機と判断して一気に距離を縮めたタイミングで、槍使いは体を回転させ……矛がない部分で背を思いっきり押した。
(あちゃ~~、そうなってしまうか。まっ、槍使いのナイス判断ってこと、で…………マジか)
槍使いの手加減が仇となり、空中で双剣を放り投げた双剣使いは背を押す槍を掴み、全力で体を捻る。
「せやっ!!!!!!!!」
ここで槍使いげ槍を話していれば結果は別だったが、とっさの判断が間に合わず、先に場外に体が付いたのは槍使いとなった。
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