四百六十七話 レスバ力は合格?
「お前が明日、俺らと戦るアラッドか」
「……あぁ、そうだな。あんたら、明日俺と戦る人たちで合ってるよな?」
森の中でスティームとの訓練と狩りを終えた二人の前に現れた冒険者たち。
彼らの正体は、翌日アラッドとコロシアムで試合を行う若者たちである。
「もしかして、試合する前に勝てそうにないからって、闇討ちでもしようってか?」
「噂通り、クソ生意気なルーキーだな」
デルドウルフのクロとストームファルコンのファルがいる前でも怖気づくことはなく、そういった輩らしい態度でアラッドを見下す。
実際のところ、アラッドはそれなりに身長が高いので、見下そうとしても物理的には対して見下せていなかった。
「強い従魔の威を借りて手に入れた力が、よっぽど自慢みてぇだな」
「そりゃどうも。クロは本当に優秀だからな。俺も毎日助けてもらってるよ」
殺気立ちそうになっていたクロのモフ毛を撫で、良い意味で自慢気な笑顔を返す。
クロも主人に褒められ撫でられ、とてもご満悦な表情になる。
「ちっ、カッコつけやがって。あれか、貴族って奴は常にカッコつけなきゃ生きられねぇみたいだな」
(……今まで会ってきた俺アンチ? の中では、結構レスバ強い方かな)
絡んで来た明日の挑戦者たちのリーダーである青年のレスバに感心するも、そういったやり取りはアラッドも負けてない。
「えっと……あれか、とりあえず明日どう頑張っても勝てそうにないから、今のうちに負け惜しみを吐き散らかそうとしてるんだな」
「「「「「ッ!!!!!」」」」」
「アラッド、可哀想だからあまり虐めてやるなよ」
スティームとしては、威勢良くアラッドに絡んで来た者たちを、これ以上容赦ない口撃から守ろうとしている。
「……スティーム。それはあいつらを守ろうとしてる言葉じゃないぞ。寧ろ思いっきり投石してる」
「えっ? ……あっ! ご、ごめんね」
アラッドが彼らを虐めているという構図を外から見ると、彼らがアラッドよりも弱者という立場になる。
それをアラッドのツッコミで理解したスティームは直ぐ彼らに頭を下げるが、それはそれで彼らの怒りを買うことになる。
「まっ、とりあえず俺たちを闇討ちしようとか考えてないんなら、とりあえず退いてくれないか? 口喧嘩も明日のリングの上で付き合うからさ」
完全に上から目線な提案に、口調に……一応アラッドよりも歳上である彼らの怒りは増す一方ではあるが、彼らとしても場外乱闘を起こし、明日の試合を無しにするつもりはなかった。
因みに、これは本人が言い訳を口にしても信じる者はいないが、アラッドはいきなり絡んできた明日の挑戦者たちに対して、上から目線で話しているつもりは一切ない。
ただ……自分に絡んで来た者たちの反応が、あまりにも面白過ぎた。
おもちゃの様に表情をコロコロと変え、堪え性がなく直ぐに怒りが顔に現れる。
アラッドも彼らが自分より歳上であることは理解している。
しかし、そんな事実を覆すほどに彼らの反応はアラッドから見て子供であり、非常にからかい甲斐のある存在だったのだ。
「ふぅ~、場外乱闘になんるじゃないかって焦ったよ」
「最後はスティームの言葉がのろしになりそうだったけどな」
「うっ……今度からもっと言葉には気を付けるよ」
見事なカウンターを返されては、これ以上とやかく言えない。
「別に俺はどっちでも構わないけど」
「……それはそうと、なんで彼らは試合直前になって絡んで来たんだろうね。挑発なら、リングの上でも十分だと思うけど」
「…………試合形式は、タイマン勝負の連続。一人一人実力が強く反映される分、あいつらの一つの強味、数の力を殆ど活かせない」
タイマンの連戦というだけで、十分数の利は活かされている……と思ったが、一先ず黙るスティーム。
「だから、気が合った連中同士で少しでも俺に威圧感を与えて揺さぶって、明日に影響を及ぼそうって考えたんだろう……ってのが俺の予想」
「なるほど。彼らの考えは解らなくはないけど……アラッドからすれば、何の効果もなかったよね」
「試合前の前哨戦ではないけど、悪いイベントではなかったかな」
幼い頃から実家の騎士長、グラストとの模擬戦。モンスターとの真剣勝負。
購入したガルシアたちとも模擬戦や、オーアルドラゴンとの対面等々……威圧感に対する耐性を得られる場面が何度もあった。
そんなアラッドからすれば、先程彼らが放っていた威圧感など、チワワが頑張って威嚇しているのに等しく、思わず吹き出しそうになっていた。
「君らしいね……でも、彼らの中には、アラッドが期待出来そうな人物は、いなかったんじゃないのかい?」
「失礼だから鑑定も使わなかったんだが、正直あの中にはな……いそうになかったな」
群れることは悪。
群れている連中は総じて弱い!!! 等とアホ丸出しな孤高の意味をはき違えるような考えは持っていない。
「でも、絡んで来た連中の数からして、あれで全員ではない筈だ。そうなれば……やっぱり期待できる奴がいるかもって考えてしまうな」
(う~~~~ん……まさに猛獣、狩る側の笑みを浮かべるこの猛者の相手に挑戦者なんて……本当にいるかな?)
水を差したくないので口にはしない。
しかし、化け物クラスの逸材がそう簡単に転がっているとも思えなかった。
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