四百五十話 結局何も……
「うん、皆頑張ってるから、結構早く終わりそうだね」
まるで散歩するかのように戦場を渡り歩く大将、フール。
部下たち、臣下たちとしては止めてくれと頭を下げたくなるが、戦場を散歩するフールには……文字通り怪我一つない。
既に襲い掛かってきた二体のワイバーンを斬り殺しているが、返り血一つすら付いていない。
「さて……多分、残りは君だけだね」
「…………」
歩いて歩いて斬り殺し、また歩いて歩いて斬り殺し、辿り着いた場所は……アサルフワイバーンの元。
(うん、やっぱり逃げないね。さすがアサルフワイバーンだ)
十数年前に戦ったことがあり、知性と暴力性を兼ね備えた最強のワイバーンというのがフールの認識。
ここまで来る途中に襲い掛かってきたワイバーンとの戦闘では、一切弾まなかった心が……微かに弾み踊る。
「…………ッ!!! ギィイイィィィィイイアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!」
「良い雄叫びだ」
恐れも、闘争もない。
静かに……緩やかに一歩前に進む。
「ッ、ガァアアアアアアアアッ!!!!!」
放たれるは煉獄。
通常のワイバーンのブレスとは桁が違う、Bランクの火属性ドラゴンと比べてもなんら遜色ない煉獄が放たれる。
「さぁ、どうする」
「ッ!!!???」
一閃。
放った攻撃はたった一閃。
しかし、その一閃を……アサルフワイバーンは眼で追えなかった。
気付けば、渾身のブレスが真っ二つに斬り裂かれていた。
(うん……あの時を、少し思い出すな)
アサルフワイバーンが次に取った行動は……己の全てを懸けた爪撃。
頭領という要素を持ち合わせた凶竜だからこそ、目の前の人間がどれだけ危険な存在なのか、本能が理解する……結果、アサルフワイバーンは……文字通り、命を燃やした。
(少し思い出す、どころじゃないね)
これから放たれる爪撃は、間違いなくBランクモンスターが放てる威力を越えた、超高火力の物理攻撃。
この戦いに負けるにせよ万が一勝つにせよ、己は死ぬ。
頭領としての危機管理力がその未来を理解し、己の生命力を消費し、力に変えた。
己の生命力を力に変える……それを実行するのに、スキルは要らない。
必要なのは、本当に自身の命を燃やせる覚悟。
ほんの少しでも未来を望む者は……強者であっても発動出来ない最強にして、ある意味最狂の切り札。
「良い闘志で、良い攻撃だった。久しぶりに鳥肌が立ったよ」
「ッ……ィ」
それでも、男は剣妃の夫であり、女王を破りし巨星の父親。
ただ、自然と距離を詰め……豪炎を纏った愛剣を抜刀し、その首を斬り落とした。
「あっ、どうせなら目的を聞きたかったけど……まっ、無理だよね」
こうしてワイバーンの大群とアサルフワイバーンは時間にして十分と経たず、全滅。
軽傷者はいるが……死者どころか、重傷すらいない。
フールたちは、まさに圧巻の戦いっぷりで亜竜たちを叩きのめした。
「儂の助けがいるかと思っておったが……流石ボレアスを一人で討伐した男と、彼を慕う者たちだな」
アサルフワイバーンがワイバーンの大群を引き連れ、ロッツを襲おうとしていたことは、鉱山の地下を拠点とするオーアルドラゴンも気付いていた。
おそらく自身の助けは必要ない。
そう思いながらも、盟友であるアラッドの故郷が狙われている。
ゆえに、少し気に掛けていた。
もし……万が一が起ころうとすれば、自分が出っ張ろうと。
「無駄な心配だったな。しかし、いったい誰の差し金か……ボレアスを慕っとった連中か? 絶対にないとは言えんが……ふむ、解らんな」
何はともあれ、脅威は去った。
オーアルドラゴンとフールも突然多数のワイバーンとアサルフワイバーンがロッツを襲おうとした原因は解らないが、何はともあれ殲滅が完了。
まだ時間は昼過ぎだというのに、ロッツではワイバーンの肉料理がメインとなり、宴会が開かれた。
場所は変わり、ギーラスの元にディックスを含む数人の騎士が駆け付けていた。
「お前……やりやがったの、この野郎」
「やりやがったって、結局何も出来なかったよ」
「バカ言え、きっちり一人で風竜を倒しやがったじゃねぇか」
何度も加勢に入った方が良いのかと思い、駆け出そうとしたディックスたちだが、遂にギーラスは一人で暴風竜ボレアスの息子、ストールを倒してしまった。
「……そうだね、確かに風竜ではあった。でも、こいつは本当のドラゴンじゃなかった。父さんと同じ、ドラゴンスレイヤーの称号を手に入れる良い機会だと思ってたけど、そういう訳にはいかないね」
「あぁ……はいはい、なるほどな。ったく、偶にお前と話すのは疲れると思っちまう……とりあえず、帰ったら宴だ! それと、王都に行く準備はしとけよ!!」
それなりに似てる部分があるディックスは、ギーラスが何を感じたか故に、結局何も出来なかったと口にした真意を理解した。
「お前が納得いってなくても、人に被害を与えた風竜を倒したって事実は変わらねぇんだからな」
「そうなるよね~。はぁ~~~~……アラッド、一緒に行かない? ほら、アラッドの従魔のクロがいたからこそ直ぐにストールの元に辿り着けたわけだし」
「え、えっと……か、考えとくよ」
折角の兄からの申し出だが、アラッドとしては非常にイエスと答えるかノーと答えるか、難しい頼みだった。
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