四百四十六話 生まれた時から

「……序盤は互角って感じだな」


「アラッドが凄いのは十分解ってるけど、ギーラスさんもこう……十分現実離れしているな?」


パーティーメンバーの評価に、そこまで現実離れしてはいないと個人的に思うアラッド。

あまり長い間一緒に屋敷で暮らしてはいなかったが、それでも努力する姿はいつも見ていた。


(決してギーラス兄さんの努力を軽んじてるわけではない。ただ、純粋にギーラス兄さんならまだ序盤であれど、ストールと互角に戦えてもおかしくないと思っている)


ストールが放つ爪撃、咬みつき、ブレスなどを的確に対処していき、ダメージを最小限に抑えている。

そしてカウンターとして放つ斬撃は硬い鱗を、確かに斬り裂いている。


「ん~~~……あれだな、思ったよりあのドラゴンは戦闘経験が少ないのかもしれないな」


「そうなのかい? でも、あのドラゴンが倒されたのはアラッドのお父さんが、アラッドたちを生むよりも前の話だよね。それなら、少なくとも生きてる年数はギーラスさんより上だと思うけど」


「そう、だな。でもさ……自分よりも強い相手との戦闘経験は、ギーラス兄さんの方が上だと思うぞ」


「……あぁ~~、なるほど。ドラゴンという種族を考えれば、確かにそうかもしれないね」


王族や大貴族から生まれた子供とは桁が違う……正真正銘、生まれながらの強者。

それがドラゴンという種族。


それ故に戦うモンスターたちが自分の力より高いことはあまりなく、そういったモンスターと遭遇しそうになれば、生まれながらの強者としてのプライドが邪魔してか、戦闘を避ける場合がある。


人間の様に強くなる為に格上に挑むという発想がまずない。


(ギーラス兄さんは屋敷にいる間、学園で学生をしている間もずっと自分よりも強い強者に挑んでいた筈。ストールという巨体の相手との戦闘経験は少ないかもしれないが、そういった点に焦りを感じて慌てる様な人じゃない……とはいっても、少々気になる部分はあるがな)


決してギーラスが、ストールに僅かでも押されている部分があるように見える、という訳ではない。


「アラッド、ギーラスさんは……何かしてるよね」


「そうだな。何かしてるとは思うんだが、ハッキリと見えない。マジックアイテムを身に付けて何かをしてるようには思えないんだけどな……」


因みに現在ギーラスが装備しているマジックアイテムは、以前アラッドが兄の為にと購入してプレゼントとした邪破の指輪。

この指輪を身に付けているお陰で、状態異常攻撃やデバフ攻撃を一定のレベルまでは無効化し、精神耐性の効果と防犯機能も付いている優れもの。


ちなみに色襲の誓約という名のピアスに関しては、なるべく己の力だけでストールを倒したいという思いが強く、現在は身に付けていなかった。


(決してストールの攻撃が弱いってわけじゃない。ただ……思ったより風の力が強くない。もしかして、まだギーラス兄さんをそこまでする相手じゃないと思ってるのか? さすがにそこまで馬鹿ではないと思うんだが…………待てよ。そういう、ことなの、か?)


ストールが放つ風力が意外と弱い。

その疑問ともう一つ、時折放つギーラスが放つ斬撃の威力が爆発的に増している。


何故ギーラスが放つ炎剣の威力が時折爆発するのか、アラッドは解かった……解かったが、確信を持てなかった。


「ギーラス兄さん……もしかしたら、黒炎を使ってるのかもしれない」


「ッ!!!??? こ、黒炎だって!!?? それは、さすがに……いや、でもそれなら納得出来る理由というか……」


アラッドの言葉に衝撃を受け、それはないだろうと否定しかけるが、視線の先で繰り広げられるやり取りから、その可能性がゼロとは言えなかった。


属性魔力に色が付く場合があるが、極めて希少な力。

誰もが習得しようと思って習得出来るスキルではない。

極……極限られた一分の人間だけが習得出来る力。


当然、その力を使用する際には通常よりも魔力の消費量が大きくなるが、その力は非常に優れている。


ギーラスがほんの一瞬ではあるが使用している黒炎は、相手が纏う魔力などを吸収し、己の力に変える。

そのため、時折ストールが纏う、もしくは放たれるブレスや風魔法の威力が弱まっていた。


「殆ど違いが見えないから、ストールは何が起こったの正確には理解してなさそうだな」


アラッドの言葉通り、ストールの頭の中は混乱で埋め尽くされていた。


何故自分の風が弱まっているのか、何故自分ばかりが大きなダメージを受けているのか。

何故……自分が矮小な人間を相手に劣勢を強いられているのか、理解に苦しんでいた。


勿論、ギーラスも無傷ではない。

それでもBランクの中でも最上位に位置する強敵とのソロバトルという状況を考えれば、ダメージは最小限に抑えられている。


(心の中で心配に思う気持ちは確かにあった……でも、本当に余計な心配だったのかもしれないな)


とはいえ、戦場は更に激しさが加速。

万が一どころか、まだまだ僅かなミスが命取りに繋がるという戦況は変わらない。


ただ……戦況が最終局面に突入しそうなタイミングで、ストールは良い意味で戦闘スタイルを変え、悪い意味でドラゴンらしくない構えを取った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る