四百四十話 止まらない笑い
「そういえば、こっちにはどれぐらい居るんだ?」
「そうだね……特に決めてはいないかな」
アラッドとスティームも兄に呼ばれてラダスに来たたため、今後の予定が一切決まっていなかった。
「良かったらさ、アルバース王国にいる間、俺と一緒に旅しないか」
「………………マスター、水を一杯」
酔っているからこその利き間違いかと思い、少しでも酔いを醒ますために水を注文。
「ぷはぁ……ごめん、もう一度言ってくれないか」
一気に飲み干し、先程までと比べて少しは酔いが落ち着いたため、確認のために聞き直す。
「こっちにいる間、俺と一緒に旅でもしないかって勧誘……いや、組織じゃないから別に勧誘ではない、か? とにかく、そっちが良かったら一緒に旅でもどうだっていうお誘いだな」
「………………何故?」
再度、長い時間を置いて、ようやく言葉が零れる。
スティームとしては、ほぼランクアップが確定しているため、アラッドは一応自分と同じステージにいる。
それは理解しているが、中身は色々と違い過ぎることも理解している。
そのため……何故自分を誘ったのか、その理由が全く解らない。
光栄なお誘いということだけは理解出来るが、誘われる理由がいくら考えても思い付かない。
「何故って……あれだ、折角アルバース王国に来たのに、速攻で帰るのは勿体ないと思わないか」
「ま、まぁそれはそうだね。こっちの国でいくつか気になる場所はあるし」
「そうだろ」
そうだろそうだろと頷きながら、また一杯注文。
(ま、マティーニ……また度数がそれなりに高いのを呑むな~。それでも頬が少し赤いだけで、酔ってるようには見えないし……もしかして、ドワーフの血が混ざってたりするのかな?)
エールは美味い水だと断言する種族がドワーフ。
大抵の種族が、酒の飲み比べではドワーフに敗北するほどアルコール耐性が高く、酒を愛する種族でもある。
アラッドの呑みっぷりは平均以上だが、ドワーフの血は過去に遡っても……一滴も入っていない。
「後はまぁ、個人的な勘というか、本能? スティームさんとなら面白い旅になりそうだと思ってな」
「アラッド……」
「それともう一つ、青年二人とトップクラスの従魔二人なら、絶対に面倒な輩が絡んで来ないと思う」
「うん、それはその通りだね」
やや感動系の空気が流れそうなところで、現実的な話がぶっこまれた。
ただ、スティームとしてもその理由には非情に納得。
十八歳でCランクは……世間一般として、十分に成功している。
肉体的にもまだまだこれから全盛期であるため、同期だけではなく性格が終了しているベテラン達からも妬まれやすい。
今まで何度もそういった輩に絡まれてきたスティームだが、これまで全て己の力……もしくはブチ切れたファルが処理してきた。
(それなりに立場も上がってきたと思う今でも絡まれるからな~)
既に少年ではなく青年と言える見た目に成長した現在でも、度々絡まれては捻じ伏せるという行為を繰り返すことに……若干嫌気がさしていた。
「というか、アラッドも面倒な輩に絡まれることがあったのかい?」
「……なんだかんだで、あまりベテランたちに変な絡み方はされてない、か。でも、同じルーキーからはがっつり絡まれたな」
「へぇ~~。詳しく聞いても良いかい」
イケメンではあるが、中々圧が強い顔をしてるアラッドに絡んだルーキー。
そのルーキー……ギルの一件について詳しく聞いたスティームは酔いが入っていたこともあり、周囲に他の客がいるに関わらず、大爆笑。
「はぁ、はぁ、はぁ……お腹が痛い」
「大丈夫か? 頼むから、笑い過ぎて吐いたりしないでくれよ」
「それは、大丈夫だよ。ただ……はっはっは! ダメだ、笑いが止まらない」
まず、アラッドに喧嘩を売る時点で笑える。
そして基本的に人がイラつくポイントである、家族をバカにするという愚行。
これを行ってしまうという愚かさにも大爆笑。
スティームは自身の家の権力を振りかざす横暴坊ちゃんタイプではないが、それでも自身が貴族の令息だと理解している。
仮にスティームが本気で家族をバカにされるようなことがあれば、追放だけに留まらず、気が済むまで殴り続ける。
(このアラッドを相手に……はは!! だ、ダメだ。本当に、笑いが、止まらない……無謀にも、程がある。ある意味勇者だ!!!!!!)
決してその愚行を褒め称えようとは思わない。
仮にその場にいれば、血の気が引く自身しかない。
「まぁ、あれだよね。平民出身の冒険者たちは、やけに僕たちに対してこう……負けん気が強いよね」
「ぬくぬくと温い環境で育ってきた温室育ちのお坊ちゃんには負けられない! 的な思いが強いんだろ」
「中を何も知らなければ、そういうイメージしか持ってないのも、仕方ないかもしれないね…………アラッド君、さっきの誘い、受けるよ。アルバース王国にいる間、是非君と旅をしたい」
「こちらこそ、よろしくな」
二人はその場で握手を交わし……その光景を見ていたマスターは、二人にウィスキーフロートをご馳走した。
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