四百二十七話 主人の危機?

アラッドはギーラスの提案によりディックスの弟であるスティームがラダスに来るまで、ディックスと顔話合わせないようにしていた。


(何日待てば良いのやら……)


なんて思っていたアラッドだが、数日後には噂の従魔、ストームファルコンと一緒にスティーム・バリアスティーが到着。


朝方、騎士の一人がアラッドを迎えに行き、クロと一緒にスティームがいるであろう騎士団の拠点場所へ向かう。


「おはよう、アラッド」


「おはよう、ギーラス兄さん。スティーム・バリアスティーが到着したってのは本当なの?」


「あぁ、本当だよ。伊達に鳥獣系の従魔を従えてないってことだね」


数日間でホットル王国からアルバース王国のラダスに到着。

やや感覚がマヒしつつあるアラッドでも、それがどれだけ凄い事なのかは解っている。


「兄さんは、もうスティームに会ったんですか?」


「あぁ、昨日の夜から騎士団の寮に泊ってるよ」


なるほど、自慢するだけのことはある。

素直にそう思ったギーラス。


普通、並ではない。

隣に並ぶストームファルコンのお陰で実績を重ねてきた、とスティームの努力をバカにする者は、ただ視る目がない。


実際に手合わせしたわけではないが、一人の強者として認めた。

ただ……それでも、これから行われる模擬戦でアラッドが負けるとは思っておらず、その表情はいつもと変わらなかった。


「あいつらはもう訓練場の方にいるよ」


兄と一緒に訓練場へ向かうと、中心地ではギーラスと同じで弟自慢が好きなディックスと、その自慢の弟であるスティームが軽く体を動かしていた。


「おぅ、ギーラス! そいつがお前の弟か!!!」


「そうだよ。この子が自慢の弟たちの中でもとび抜けて強い子だよ」


兄同士が話をする中、アラッドはとりあえず挨拶をしようと前に出る。


すると、スティームの従魔であるストームファルコンが主人の前に立ちふさがった。


「ふぁ、ファル。どうしたんだ?」


「……」


静かに見つめる視線の先にいるのは……アラッドではなく、その少し後ろに付いているクロ。


ストームファルコンのランクはB。

モンスターの中ではミノタウロスやトロールと並ぶ強者。

スティームの頼れる相棒でもある……だが、今は目の前の強敵に肝が冷えていた。


「えっと……クロは君の主人をどうこうするつもりはないよ」


自分の従魔は無害だと主張。

警戒心を向けられたクロ、デルドウルフも特にその警戒心に対して態度を変えることはなく、静観していた。


「……」


強敵、そしてその主人に敵意や悪意がないと解り、完全に警戒心は解かないが……ひとまず主人であるスティームの後方へと下がる。


「ご、ごめんね。いきなりファルが失礼なことしちゃって」


「いや、気にしてないよ」


今回の主役同士、一歩前に出て握手を交わす。


(金髪でサラサラヘアー……顔面偏差値的にもベルに似てるな。まっ、強さは数段上みたいだけど)


握手を交わしただけですべてが解る、といった達人を越えて仙人の領域には至っていない。


それでも全身から零れ出るオーラや体つきから、似ている友人より強いと断言出来た。


「ディックス兄さんの弟のスティーム。よろしくね」


「ギーラス兄さんの弟、アラッドだ。よろしく」


軽い挨拶が終わると、アラッドは特に武器を持たず、軽く準備運動を始めた。


「ふっふっふ、ようやく俺の弟の方が凄いって証明できるぜ」


「……」


隣に立つ兄は自信満々な表情を浮かべている。

しかし、その隣のこれからアラッドと戦う弟は、一気に真面目な表情へ変わっていた。


(兄さんの変な意地で他国に呼ばれたと思ってたけど……どうやら、無駄な時間にはならなそうだね)


静かな闘志を燃やしながら約五分後、アラッドの方の準備が整った。


「二人とも、今回の一戦が模擬戦だということを忘れるなよ」


審判はこの騎士団の副団長が務める。


「えぇ、勿論です」


「解ってます」


「よし、それでは……始め!!!!」


副団長の合図と共に、両者とも軽快な足取りで前に駆け出した。

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