四百二十話 もっと早い段階で狂わなければ
「よし、今度こそ受けてもらうぞ!!!!」
とある一室で、魔法学園の学園長が一人盛り上がっていた。
墓荒しの一件が解決した今、アラッドが優先的に行うべきことはない。
そう判断した学園長は、早速指名依頼を冒険者ギルドに提出。
ドラゴンゾンビをソロで倒したという情報は既に手に入れているため、指名依頼の報酬額は前回よりも上げている。
この金額であれば受けてくれるだろう……そう思って冒険者ギルドに指名依頼を提出したが、帰ってきた答えはノーだった。
「な、何故だ~~~~~~っ!!!!!」
予想に反した答えに、学園長は執務室で頭を抱える。
学園長個人に……学園に不利益があった訳ではない。
しかし、学園長としてはあのアラッドの臨時授業を受けられないのは、学生たちの人生にとって大損だと思っている。
アラッドの指導を受けられないことが大損か否かは人それぞれの考えによる。
ただ……圧倒的な実力を持つ者からの指導を受けられることは、その生徒に大なり小なり影響を与えるのは間違いなかった。
(この学園……確か、前にも俺に臨時教師の指名依頼を出してたよな……俺が受けたところでって話だろ)
マジットが偶に臨時教師をしている学園と知っているため、接近戦が得意である自分が臨時教師をしたところで、何か新しいことを教えられる訳ではない。
そういった冷静な観点からの考えもあって、アラッドは多額の達成報酬金が受け取れるにもかかわらず、学園からの指名依頼を拒否した。
「聞いたぞ~、アラッド~~。学園から依頼された臨時教師のやつ、断ったんだってな」
「俺、なんだかんだでまだ十五ですよ。人に教えられるほど人生経験積んでないんで」
話を聞きつけた同僚が一緒に夕食を食べる際、その件について話を振った。
「優等生な回答だな~。かなりの金額だったんだろ」
「……まぁ、ちょっと引くぐらいありましたね」
遊び道具やキャバリオンのお陰で、生の大金や莫大な売り上げの数字は見慣れている。
しかし、一回受けるだけで得られる金額。
依頼を受けるにあたって拘束される時間などを考えると……学園から提示された金額は、正直引いてしまうほど高い。
指名されたアラッドだけではなく、他の冒険者が見ても驚愕するのは間違いない。
「か~~~~、超羨ましいぜ!」
「アラッド君はあれだよね。ドラゴンゾンビの骨を売って手に入れたお金があるから、そこまで無理に依頼を受ける必要がないんだよね」
「そうですね」
先日の一件の中で、アラッドの最大の活躍と言っても良い……ドラゴンゾンビのソロ攻略。
皮膚などはゾンビなどで使い物にならないが、骨は悪くない状態であるため、高値で取引される。
魔石が残っていれば更に大金を手に入れられたが、一刀で倒す為には魔石を切断するのは一番効率的だった。
「まぁ、理由としてはあまり学園の学生に好かれてないというのが、大きな要因ですね」
「あぁ~~~、なるほどなるほどな。同世代の奴がドラゴンスレイヤーとか妬んで当然……てか、俺なら一周回って尊敬するんだが」
「僕も同意見だね」
「私も同じね。多分だけど、学園としてはその強さに繋がる秘訣を学生たちに教えたいんじゃないかしら」
女性冒険者の考えは、少なからず的を得ていた。
「…………今の彼らに教えられることは、延長線上の内容でしかない。俺ぐらいの年齢で俺や……レイたちや、フローレンス・カルロストぐらいの強さを手に入れたいなら、幼い頃から狂気を持つしかない」
「狂気って……狂化のことか?」
「いや、そうじゃないですよ。簡単に言えば、どれだけ強さを求めることに狂えるか」
「ふむふむ……少し話は変わりますが、アラッド君はこれから何を目的に冒険者活動をしようと考えてますか?」
好青年冒険者からの問いに、一ミリも隠さず答える。
「強いモンスターとの戦い、変わらずそれを求める活動ですね」
「うん、なるほど。確かに狂っている部分がありますね」
「だなだな。見事な狂いっぷりだぜ」
「強者……いえ、狂者だからのセリフ、かしら?」
若干馬鹿にされている様にも感じたが、今は褒め言葉だと思って受け取り、残っているエールを喉に流し込んだ。
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