四百十八話 不運続きから……

「……頭痛ぇ」


遺伝的にアルコール耐性はそれなりに高いアラッドだが、注文された酒類を殆ど呑んでいき……吐く一歩寸前まで追い込まれた。


これは不味いと思い、一旦適当な理由を告げて宴会場から出て夜風に当たりに行った。


(自力で……まぁ、そうだな。自力と言っても良いか。不安は残るが、自力でドラゴンを倒せたんだよな)


アラッドとクロの二人だけの状態で遭遇したわけではなく、あの場には多くの証人がいた。


ドラゴンゾンビという超難敵であるAランクモンスターを、アラッドは本当に一人で倒してしまった。


(クロの声がなかったら危なかったけど、これで少しは父さんに近づけたと思っても良いのかもな)


通常では考えられない功績を打ち立てたアラッド。

そんな漢気溢れる超新星に、ベテラン冒険者たちや戦場にいた騎士、魔術師たちはアラッドの二つ名について考え始めている。


冒険者になって半年も経っていないルーキーに二つ名を付けることは、まずあり得ない。

ベテランが酔っ払ってルーキーの特徴をふざけて二つ名で呼ぶことはあるが、それは本当におふざけと言える呼び名。


冒険者歴はまだ半年も経っていないが、その間にアラッドは自身の力だけで特殊なオークシャーマン、闇属性の武器を持ったミノタウロスの二体……既にBランクモンスターを二体も倒している。

クロの功績も入れると、Bランクの黒い角を持つケルピーが合算され、合計Bランクモンスターを三体。


そして今回の討伐で運悪くではあれど、Aランクモンスターのドラゴンゾンビと限界ギリギリのバトルを行い、見事勝利。


「二つ名、か……」


チラッと耳に入っていたため、彼らがどんな二つ名を話していたか、少々気になる。

転生者としては恥ずかしい呼び名と感じてしまう部分はあるが、それなりにこの世界に染まりつつあるため、未来の二つ名がいったいどんな名なのか……楽しみな部分もあった。


「……っ」


「おや、アラッド君じゃない、か」


非常に……非常にタイミングが悪かった。


ギリギリ、表面張力のように抑え込んでいた吐き気が、一気に爆発。

呑みに呑んだ酒の量を考えれば、その日の内に吐いてしまうのも仕方ない。


そしてマジットは、アラッドと同じく少々酔いを感じ、夜風に当たりに来た。

ただそれだけなのだが……アラッドからすれば、非常に悪いタイミング。


「おいおい、大丈夫か」


とはいえ、長年冒険者として活動し、ギルドの職員として活動するようになってからも、ギルドに併設されている酒場で酔っ払い、その場で吐いてしまう輩は何人も見てきた。

そのため、介抱する様子は非常に手慣れたもの。


「す、すまん」


「気にするな。全く、まだ十五の若者に呑ませ過ぎるからだ。祝いの席で英雄に酒を呑ませたがるのは解らなくもないが」


マジットにも過去に潰れた経験、逆にテンションが上がってしまし、グラスに注ぎに注いで潰してしまった両帆の経験がある。


「英雄って……あんまりそう呼ばれるのは、慣れないな」


「そうか。しかし、君は紛れもなく英雄だ。多くの者たちをサポートし、ドラゴンゾンビを単独で倒して……私に力を貸してくれた」


「…………どうも」


真正面から「決して自分の力だけではない」と返されてしまっているので、今更同じ真似は繰り返さない。


「君のお陰で……友に罪を背負わせずに済んだ。改めて、感謝する。ありがとう、アラッド」


酒を呑んでいることもあり、その頬は少し赤らんでいた。

だからか……アラッドは、今まで見てきた笑顔の中で、一番美しいと感じた。


(……っ!! まずい!!!!!)


次の瞬間、アラッドは自身のムスコが元気になったのを察知。


「ん? どうし……た」


一瞬、ほんの一瞬身をマジットとは逆の方に向けるのが遅れた。


言葉が詰まったのを察知し、アラッドは猛烈に死にたい……穴があったら入りたい感情に駆られる。

だが……マジットはそっとアラッドの手を握り、パーティー会場とは違う方向を指さした。

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