四百十六話 迎えた終わり
他者に殺された瞬間、無差別に周囲の生物を殺し続けるゾンビになる……といったラストはなく、マジットの正拳による首から上が弾け飛んだ黒幕男の体は力なく崩れ落ちた。
「勝ったんだ、だな」
ジャストタイミングでアラッドが生み出したオリハルコンの羽衣も消滅。
既に他の魔術師やゾンビたちも討伐完了。
誰一人死なずに終わらせたわけではない……だが、それでも討伐隊の勝利と言える結果に収まった。
「やったわ、マジット!!!」
「うっ!!??」
一人……また一人とマジットの元に戦闘者たちが駆け寄り、覆いかぶさる。
アラッドの狂化と類似するスキルを使用したため、耐え切れずにそのまま倒れてしまう。
(お疲れ様は……また後で言うか)
直ぐにマジットの元へ向かい、労いの言葉を掛けたかったアラッドだが、フローレンスとの戦闘時よりも反動が来ており、しばらくその場から動く気になれなかった。
「マジット、どごに……」
自身の背中を押し、感謝の言葉を何度も送ってくれた仲間たちに一旦断りを入れ、とある人物の元へ向かう。
「やぁ、互いにボロボロだな、アラッド君」
「あ、あぁ……そうだな」
二人とも使用後に反動が来るタイプの強化系スキルを使用したため、そこそこボロボロな状態と言える。
ただ、アラッドには今のマジットの姿は何故か神々しく見える。
「ありがとう」
地面から尻が離せないアラッドの目線に合わせると、そっと両手を背中に回した。
「っ!!??」
感謝の言葉を伝えられるまでは予想していた。
しかし、突然のハグは完全に予想外。
予想外過ぎるマジットの行動に、完全硬直するアラッド。
一部のマジット信者はさすがに容認できないマジットの行動に、先程まで限界突破しそうだったテンションが、確実に悪い方向へ限界突破した。
「本当に……ありがとう」
「マジッ、ト?」
自身の肩に暖かさを感じた。
決して豊満な胸の暖かさと勘違いしている訳ではなく、アラッドの肩には暖かい……涙が流れていた。
その涙をチラッと見えた信者は、悪い意味で限界突破したテンションが急激に下がり、謎の第二ラウンド勃発とはならずに済んだ。
「……一歩前に出れたのは、マジットの力だ。引退してから、少しも錆び付かせていなかった肉体、技があったからこそ、あのクソ野郎を倒せたんだ」
今だけは別に良いだろうと思い、背中に手を置いて、彼女に心の底から労いの言葉を掛けた。
「違う」
しかし、労いの言葉はまさかのノータイムで、そうではないと叩き切られた。
(えっ……まさかの食い気味に否定?)
ノータイムでの拒否に、若干意気消沈したアラッド。
「君が、私の思いを知って手助けをしてくれた」
「いや、まぁ……そりゃ、ね」
「君が……皆が、私の背中を押してくれた。だからこそ、私は一人で奴を倒すことが出来た。地獄に叩きつけることが出来た……あいつらに罪を背負わせず、向こうに返すことが出来た」
だから、という言葉に続けて、もう一度恩人に感謝の言葉を伝えた。
「アラッド君、皆。本当にありがとう」
「……どういたしまして」
ここでこれ以上とやかく言うのは、男らしくない。
討伐隊のメンバーや信者たちも功績を譲り合うことなく、激闘を共に制した仲間全員を称えあった。
「本当におぶらなくて良いのか?」
「あぁ、大丈夫だ……いくら動けなくとも、それは恥ずかしいんでな」
マジットは喜んで背負うと告げたが、アラッドは本気で恥ずかしいため、クロの背でダラっとした状態から遠慮の意を伝えた。
逆のシチュエーションであればともかく、自分が女性に背負われるのだけは勘弁。
「よし、撤収するぞ!!!!」
黒幕の男たちが溜め込んでいた研究資料などを全て燃やし尽くす。
一応黒幕男の死体だけは持ち帰るが、決して悪用されるような真似はしないと学園に属する魔術師が己の魔法道に誓い、責任を持って管理することとなった。
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