四百三話 気付いた違和感

(いや~、マジで強かったな……あれだけ強い人が参戦するなら、俺とクロだけでなんとかしなくても良い、か)


殆どの関係者が知らない、アラッドとクロの奥の手。


その奥の手を使えば、大群を相手に真正面から戦うことが出来る。

しかし、アラッドが墓荒しの黒幕との戦いに参戦する……そうなれば、討伐隊が多大なダメージを受けるようには思えなかった。


(それっぽい場所を見つけることが出来たら、ちゃんと報告するか)


少々晴れやかで……満足気な表情でギルドを出ると、一人の冒険者に声を掛けられた。


「おい、ちょっと待ってくれ!!」


「ん?」


声が聞こえた方向に振り替えると……そこには、面識がない冒険者が立っていた。

ただ、面識がないとは言っても、アラッドは薄っすらと覚えている。


何故なら……自分とマジットが冒険者ギルドの訓練場で模擬戦を行うという情報を聞きつけ、本日訓練場にいた冒険者の一人だったから。


(確か、俺に負の感情を向けてた奴の一人だよな……もしかして決闘か? まぁ、今日は気分が良いから受けても良いか)


意外と決闘には乗り気なアラッドに対し、傍に居るクロは男に対してつまらなそうな目を向けていた。


「…………」


「……おい、用がないなら帰るぞ」


男は声を掛けたはいいが、中々その先の言葉が言い出せず、もやもやした表情を浮かべている。


この後予定がないアラッドだが、無駄に引き留められるのは良い気がしない。


「ま、待ってくれ!! ッ~~~~~~、ど、どうやったら強くなれるのか教えてくれ!!」


ストレートな注文に、アラッドは何度も瞬きを繰り返す。

何故なら、男はただ強くなる為の方法を聞いてるのではなく、差し出す手には金貨二枚。


いつぞやのリンチ(仮)を行い、その代償としてアラッドに支払った金額と同じだった。


ひとまず、アラッドは差し出された金貨二枚を貰う。


「強くなれる方法だな。もう何度も同じ質問をされてきたが、今までより詳しく説明するなら、どれだけ我慢出来るかが重要だ」


「どれだけ我慢出来る、か」


先程まで負の感情を向けていた同世代のルーキーだが、しっかりと筋を通した頼み方をしてきた。


頼んできた本人がリンチ(仮)に参加していなかったこともあり、アラッドはしっかりと金貨二枚分の強くなる方法を教えた。


「……ってな感じだ。それじゃ……っと、一応言っておくか」


「?」


「お前だけじゃなくて、多くの冒険者や学生がマジットさんを慕ってるのは解かる。解るが、俺を憎いと思うなら、さっさとそれらを実行して強くなるのが一番良いという、色々と近道だと思うぞ」


「ッ!!!」」


最も過ぎる内容ではあるが、真正面から確信を突く内容を告げられ、盛大に固まるルーキー。


そしてアラッドは今度こそ、男の前から去った。


(ちょっと真面目に語ったけど……ぶっちゃけ、マジットさんに教えられてるであろう内容だったよな)


アラッドとしては、金貨二枚分の誠意と妬んでいるはずの相手に頭を下げ、教えを乞うてきた男の勇気に応えたつもりではある。


しかし、本人からすれば……貴族出身者が持つ才能以前に、訓練と実戦を続けてきた年数が違う。

故に……強くなる為に必要な要素を上手く言葉を使い、なんとか男を納得させた。


少し考えれば、気付く者であれば直ぐに気付いてしまう基礎的な内容ではあるが、アラッドとしては真理を伝えたまで。


「っ!?」


ひとまずその日の内に男から何かを言及されることはなく、翌日はいつもどおり墓荒しの黒幕探しを行っていた。


そして昼休憩から約二時間後……森を走っていたアラッドは、クロに止まれと合図を行った直後、直ぐに走って離れろと合図を出した。


主人の意図は解らないが、クロは言われた通り急停止から急発進。

何かに気付いた場所から二キロほど離れた時点で、アラッドはクロの背中から降りて何かを考え始めた。

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