三百七十話 人間か?
一先ず、アラッドはラスターの自分に対する呼び方に対し、様付けを止めてくれとは言わなくなった。
ただ、ラスターの感謝してもしきれない……何か自分に出来ることはないか、という申し出に関しては丁重に断った。
ユニコーンの角をゲットするという仕事内容に関して、アラッドも偶々偶然が重なって上手くいっただけ。
人によっては、白金貨三十枚以上出す人がいてもおかしくないほど、高価な物であると理解はしている。
だとしても、ラスターから直接頼まれ、現在交渉中などではなく、単に面白そうな依頼があると思い、受けただけ。
冒険者として、依頼の報酬内容以外に、依頼主から何かを受け取るのは、基本的にNG。
そんなアラッドの揺るがない芯を感じ取り、ラスターはとりあえずその件に関しては納得した。
自分が錬金術にプライドを持っている様に、アラッドも冒険者という職に対してプライドを持っている。
それを少しでも理解すれば……引き下がざるを得なかった。
その後、アラッドは適当な依頼を受け、普段通り街の外へ向かう。
「最前線を行く人は、根っこから違うということだな」
ラスターは敬意を持つ者と直接会え、話すことが出来……更にその者の芯を少しで感じることが出来た余韻に浸っていた。
「やっぱり、アラッドはそっちの方面でもすげぇんだな」
「凄いという言葉では片付けられない功績だよ。新たなマジックアイテムの製作は、どの錬金術師も一度は目指すものだ……だが、殆どは上手くいかず、ガラクタの山を造り上げて終わりだ」
ラスターはまだ錬金術師の中でも熱意を持っている方だが、最前線を突っ走ろう……という思いに関しては、やや勢いがない状態だった。
「そうだな、冒険者に例えると……Bランク、もしくはAランクに到達する難しさだよ」
「BランクとAランクではそれなりに到達する難易度が違ってくると思うが、まぁ何となくどれぐらい到達確率が難しいかは解るよ」
冒険者の一般的な常識として、Bランクに到達するにはある程度の才能と、頭のネジが最低一本は外れた努力や実戦を積み重ねた凡人が辿り着ける境地。
Aランクは……いくつもの修羅場を乗り越えるのは当然として、冒険者の中でも頭三つから四つは抜けている傑物でなければ到達できない境地。
「アラッドは既にBランクのモンスターを一人で倒してるからな」
「そうなのか? やはり偉大な方だ」
「お前……尊敬してる人物なら、もう少しその人の情報収集ぐらいしろよ」
錬金術師に限らず、鍛冶師や裁縫職人などの、職人たちは自分の仕事に熱中し過ぎるあまり、外の情報を無意識にシャットアウトする傾向にある。
「それもそうだね。ということは、アラッド様がBランクに昇格する日も近いということかな?」
「そんな簡単な話じゃねぇんだよ」
その言葉に主に、まだギルド内に残っているルーキーたちが厳しい視線を向けるが、ラスターは一切気にせず友人との会話を進める。
「ふ~~~ん……まぁ、組織である以上、そう簡単にほいほい上げることは出来ないか」
「そんなところだ」
「……でも、アラッド様ならキャバリオンを造れるという特異な点を加味すれば、直ぐに上げても良いと思うけどね」
そもそもキャバリオンがどういった物なのか、あまり詳しくないルーキーが表情に小さい苛立ちを浮かべながら、先輩冒険者に尋ねた。
「あの、あそこの会話で所々出てくるキャバリオンって、いったいどんなマジックアイテムなんですか」
「えっとな、実際に見たことがある訳じゃねぇけど、装着するタイプのマジックアイテムで、扱いに慣れれば圧倒的な脚力で移動できるらしいぞ。ちなみに、一台の値段はあの錬金術師が報酬金に用意した白金貨三十枚と同じか、それより上らしいぞ」
「「「「「「「っ!!!???」」」」」」」
先輩冒険者の言葉を耳にしたルーキーたちは、一斉に一番それらに関して情報を得ているであろう、ラスターの方に顔を向ける。
その視線に気付き、会話も聞こえていらラスターは同意するように頷き……ルーキーたちは本気で、アラッドは一体どんな人間なのか……そもそも人間なのか怪しいと考え始める者まで現れた。
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