三百二十八話 本当に申し訳ない

騎士の爵位を授与される当日、アラッドは国から派遣された馬車に乗り込み、王城へと向かっていた。


(軽くやり取りをして、それで終わり……緊張なんてしてる暇ないよな)


なんて思いつつも、既に緊張感を持っているアラッド。

国王陛下とは面識があるため、当初よりも緊張感は薄まっている。


特別なキャバリオンを用意したこともあり、それなりに親交がある存在……と、言えなくもない。


国王も、アラッドが変に緊張することなく、ささっと授与式を終わらせようと考えていた。


「アラッド様、到着いたしました」


「はい」


到着を伝えられ、馬車から降りる。

そして待機していた騎士に案内され、授与式が行われる場へやって来た。


緊張なんてしている暇はない。

そう考えていたアラッドだが、その考えは部屋に入った途端、あっさりと打ち消される。


最奥の椅子に国王陛下が座っており、両隣りにはお偉いさんたちが立っている。

列の中には、先日のパーティーで声を掛けてきた騎士たちもいた。


(何も知らない子供がこの場に来れば、ちびって泣きそうだな)


バカなことを考えながらなんとか心を落ち着かせ、予めアレクから教えられた位置まで歩を進め、膝を付く。


「アラッド・パーシバルよ。先日の試合、見事であった」


まずは先日の試合について、お褒めの言葉を貰う。


「はっ! 陛下に喜んでいただき、光栄です」


それらしい言葉を返し、このやり取りが何度か続き、本題に入る。


「これから、貴殿に騎士の爵位を授与する……と言いたいところなのだが」


「?」


国王の言葉に、アラッドは思わず首を傾げそうになった。


「アラッドよ、本当に申し訳ないと思っている」


「っ!!!???」


突然国王に謝られ、ギョッとした顔になるアラッド。


両隣りに並んでいるお偉いさんたちは、顔を直接見ずとも、どんな表情をしているのか容易に想像できる。


(えっ、いったい何なんだ!? 何故、陛下が俺に頭を下げてるんだ!!??)


国王に頭を下げられるような迷惑を掛けられていないので、この現状に対して困惑しかない。


とりあえず、軽く挙手をして宰相の許しを得て、自ら発言をする。


「その、いったい何があったのでしょうか」


ひとまず、国王が自分に頭を下げた原因を知りたい。


本日の主役の言葉に、国王はややテンションが落ちた状態で、アラッドに頼み事をした。


(あぁ~~~~~~~…………うん、そうなったか)


国王の言葉を聞き、何故謝罪をしたのか納得。

簡単に言うと、アラッドが騎士の爵位を授与されることに対し、不満を持っている新人騎士たちの相手をして欲しい。

そんな内容だった。


話を聞き、アラッドはそうなるかもしれないと、フローレンスとの試合で狂化を使用した時から、ある程度は予想出来ていた。

なので、国王から謝罪の理由を聞いても、特に怒りの感情が湧くことはなかった。


「かしこまりました。その方たちの申し出、受けて立ちます」


「うむ、すまないな。報酬として、白金貨十枚ほどを用意しておく」


「っ!!!???」


もう一度……もう一度、目玉が飛びでそうなほど、驚きという感情が顔に現れたアラッド。


白金貨十枚。

アラッドにとって、色々と儲けていることもあり、正直ちびってしまう程の大金ではない。

だが、騎士たち……騎士になって数年のひよっこを倒して、白金貨十枚という金額は、あまりにも謝礼金額として高い。


心の底から高過ぎると思うアラッドだが、折角の国王からのご厚意。

無下にする訳にはいかない。


国王としては、アラッドの財力を知っているからこその額であり、そこには先日行われたフローレンス・カルロストと行った試合に対しての感謝も含まれている。


あの戦いは国王も生で見ており、久しぶりに闘争心に火が付いた。

そんなアラッドに、こんな事を頼むなど……本当に申し訳ないと思っており、思いっきり表情に現れている。


「では、訓練場に移ろう」

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