二百八十五話 鋭さだけではない

「久しぶりにフィリアス様と話せて、本当に楽しかったです」


「こちらこそ、アラッドと話せて楽しかったわ……大会、頑張ってね」


「はい」


丁度良い時間になり、二人は自分たちの学園へと戻る。


「……アラッドと久しぶりにあって、どう感じました」


フィリアスは王族らしく、魔法の才能はかなりのもの。

守られてばかり、という現状が気に入らず、才能を腐らせない様に努力を重ねてきた。


それもあって、ある程度の観察眼が備わってきてはいるが、まだ自分の眼や感覚にあまり自信を持てていない。


「そうですね……一言でいえば、厚みが増した。といった感じですね」


初めてアラッドと出会い、部下であるモーナとの模擬戦を観て、ディーネはアラッドに鋭い刃物のような強さを感じた。


それから数度、時間を空けてフィリアスの護衛として度々会ってきたが、変わらず鋭い強さというのは感じる。

しかし、同時に大木のような安定感を感じるようにもなってきた。


(体格では既に私よりも大きい……体の線も、おそらく私と同等か……もしくは一回り大きいか)


今までは、アラッドを驚異的な存在だと認識しながらも、全力を出せば勝てるという自信があった。


ただ……今のアラッドと戦うことになれば、いったいどういった結果になるのか想像できなかった。

当然大敗するとは思っていない。


仮にそんな事態になれば、辞職しなければならないという思いもある。


それでは、完勝出来るのかと問われれば、絶対にノーと答える。

アラッドが子供の頃ならともかく、現在のアラッドと戦って完勝することなど不可能。


自分が強者だと自負はしているが、自惚れてはいない。


「なるほど。それでは、アラッドはフローレンスさんと戦って、勝てるでしょうか」


「……難しい質問ですね」


ディーネは実際にフローレンスが戦うところを見たことがある為、ある程度の実力は把握している。


フローレンスもアラッドと同じく、高い才能を持ちながらも努力を怠らないタイプ。

そしてディーネはフローレンスに対して「化け物とは、こういう者のことを指すのだな」と思わず心の中で呟いてしまった。


人を見た目で判断してはならないというのは常識だが、それでも……思わず目を疑いたくなるような戦闘力を有している。


(あの戦いで全力を出していたとも思えない。勿論、アラッド君の本気の本気も見ていないが……本当に予想出来ない)


そもそもな話、トーナメント形式の大会なのだから、二人がちゃんと上まで登れるのか。

そういった心配があるかもしれないが、ディーネの頭には一切そんな心配や不安はない。


あの化け物二人が、化け物以外に負ける?

絶対にあり得ないと断言出来る。


「ポテンシャルでは、両者に大きな差はないかと思います。ただ、実戦の経験数だけでいえば、確実にアラッド君が上です」


フローレンスの方が歳は上だが、なんせアラッドは五歳の頃からモンスターと戦い続けてきた。


現在のレベルだけでいえば、フローレンスの方が上。

しかし、アラッドの体質を考えればその差は戦闘に影響を及ぼすことはない。


そしてそこにアラッドの実戦で手に入れた経験値が加わると……贔屓目もあるかもしれないが、ディーネ的にはアラッドの方が有利だと判断。


「技術の練度に関しても、二年生や三年生に引けを取らない。そういった点を考えると、アラッド君の方が優勢に思えますが……フローレンス様は、公式の場でまだ底を見せていない。そんな予感があります」


「そうですね。私も同じことを感じました」


二年生で個人のトーナメントを制したフローレンスは、まだ公の場で底を見せていない。

勘の良い者であれば、それに気付いていしまう。


それに対し、二人はアラッドが持つ武器についてはある程度把握している。

多種多様であり、一つ一つの練度も並ではない。


それは解っているが……フローレンスは対処力も高く、全てが通じるとは思えなかった。


(……いや、アラッド君が私やフィリアス様に全てを教えてくれているとは限らない)


どこまでいっても、自分に測れない存在。

それを改めて思い出したディーネ。


結局学園に到着するまで二人で悩み続けたが、結果……とりあえず二人がぶつかる試合が心の底から楽しみだという結論に至った。

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