二百八十一話 心に体が追い付かない
校内戦が始まってから数日が経ち、アラッドは毎試合一瞬で終わらせている。
そして今回の対戦相手は……同じクラスの生徒である、アイガス。
(相変わらず俺のこと大っ嫌いみたいだな。別に良いんだけどさ)
リングに上がると、自分に射殺すかのような眼を向けてくる同級生に、もう少し肩の力を抜けよと思うアラッド。
しかし、アイガスにとってアラッドは何がなんでもぶちのめしたい相手。
因縁が生まれたのは本当にここ最近の話ではあるが、校内戦でも絶対に負けたくない。
完膚なきまでに叩き潰す……という勝利が無理だということぐらいは理解している。
(地面に這いつくばってでも、必ず倒す!!! あんな奴に、騎士の爵位を与えてはならない!!!!)
アラッドとは一回模擬戦を行っており、自身が全力中の全力を出さなければ勝てない相手というのは理解している。
校内戦で対戦相手に全力の殺気を向け、闘争心を剥きき出しで戦うのはおかしい?
それは本人の気持ち次第。
確かに本当に対戦相手を殺してしまうのは良くないが、それとこれとは別で……本気で殺すつもりで戦わなければ勝てないと、本能が理解してしまった。
観客席からは、アイガスを応援する声が多数あるが……アラッドを倒すことだけに集中しているアイガスの耳には、全く入っていなかった。
「それでは、始め!!!!」
審判である教師が試合開始の合図を行い、アラッドはいつも通り身体強化スキルを使って圧倒的な早さで距離を詰め、相手が死なない程度に木剣を振るった。
(ここを耐えるんだ!!!!)
しかし、アイガスはアラッドが今回も今までの試合と同じ攻撃を行ってくると予想しており、万全な対策を取っていた。
何がなんでも初撃を耐え、反撃に移る。
(変えてみるか)
その考え自体は悪くないが、「何か考えてますよ」という考えが顔に出過ぎていた。
アラッドはそんなアイガスの感情を読み、初撃を寸前で止めた。
「なっ、はっ!!!???」
自分を木刀ごと切り裂こうとする剣撃が途中で止まり、突風が襲ってきた。
何故剣撃止めたのか……その理由を解る前に、胸部に衝撃を感じた。
「ぐっ、あっ……く」
アラッドは剣撃を止め、アイガスが初撃の斬撃を絶対に止めようと考えているのを見抜き、寸ででストップ。
そしてフェイントで生まれた隙に……ヤクザキックを食らわせた。
アイガスはまかさ剣撃を囮にしてヤクザキックが飛んでくるとは思って終わらず、気が緩んだところに重い蹴りを食らった。
(ぐ、ぐっ、そ……ふざ、けるな!!! あの、野郎!!!!!)
怒りで頭がおかしくなりそう……それぐらいアイガスはアラッドの行動にブチ切れていた。
絶対にリングに戻って、全身全霊で叩き潰す!!!
その熱すぎる闘争心は一ミリも衰えていないが、心に体が付いて行かず……口から思いっきり血を吐いた。
「がはっ!?」
「そこまで、勝者はアラッド!!!」
「ッ!!?? ふ、ざけ、る……な」
まだ自分は負けていない。
直ぐにリングに戻って、騎士に全く敬意を抱いていないクソ野郎を叩き潰す。
だから、その判定を取り消せ!!!!
……と、色々と叫びたい気持ちはあるが、まず体を起こせない。
立ち上がることも出来ない。
(しまった、ちょっと強過ぎたか)
アラッドとしては、ガルシアやレオナたちとの模擬戦で放つ蹴りよりも優しく放ったつもりだった。
しかし、身体強化を使えば……当然腕力だけではなく、脚力まで上昇している。
ただでさえ素の身体能力でアイガスより優れているアラッドが身体強化を使って蹴りを放てば、どう考えても骨が折れるのは確実だった。
「……」
やり過ぎた、すまん。
そう謝ろうと思ったアラッドだったが、自分が倒した敗者の傷口に塩をかけるのは良くないと思い、無言でリングから去った。
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