二百七十八話 次は容赦しない

アラッドの試合から数回試合が行われ……ようやくレイの出番がやってきた。


「……レイの時は、意外と応援の声がありますわよね」


「はは、レイは結構人気だからね。上級生でも、悪い印象を持たれたくないって思ってる人が多いんだよ」


アラッドがステージに上がった時は、上級生から……勿論、下級生からもブーイングしか飛んでこなかった。

しかし、レイがステージに登場すると、六割から七割の生徒たちがレイのことを応援していた。


「でも、やっぱり対戦相手はさっきアラッドが戦った上級生みたいに、全く油断してないね」


「それはそうでしょう。中等部の頃から、個人戦で一度優勝してるのですから」


特異体質、才能、重ねてきた努力。

それら一つ一つが上手く噛み合い、レイは中等部の三年時……個人戦の大会で優勝を納めている。


その結果は当然、高等部に上がった生徒たちの耳にも入っている。


「ふぅーーー……」


一つ深呼吸をし、槍を構える上級生の顔に油断など一つもなく、この戦いで全力を出し切る!!!

そんな表情が浮かんでいる。


(あの人は……ちょっと記憶に残ってるね。そこそこ槍捌きが上手かった印象がある。本来なら、レイにとってはあまり印象が良くない相手ではあるけど……)


剛力は、柔の力に弱い……というのが世間一般の印象。

ただ……世の中には、そんな印象をぶち壊す猛者が存在する。


「始め!!!」


教師の合図と共に、レイはアラッドと同じく駆け出した。

しかし、身体強化のアビリティは使用していない。


それ故に……対戦相手の上級生はレイの動きに反応し、渾身の突きを放った。

勿論、上級生は身体強化のスキルを使っていた。

加えて槍技のスキル技である一点突きを発動。


名前の通り一点に集中した突きであり、貫通力が高い。

当れば、間違いなく木槍であろうと、骨を砕く。


そう……当たれば、レイを弾き返して体勢を崩すことが出来た。


(見える)


レイはどの位置から突きが放たれるかを予測することに成功。

上級生が身体強化のスキルを使っている事もあり、その美しい紅髪に掠った。


その結果がレイの表情に不満となって現れた。

ただ……反省をするよりも先に、レイのスイングが上級生の腹に向かって放たれ……鈍い音が会場に聞こえた。


そしてその後、直ぐに上級生は壁に激突。


「ッ、ガハッ!!! ゲホッ!! ……はぁ、はぁ」


肺の中にあった空気が一気に外に出てしまい、少々呼吸をするのが苦しくなったが……直ぐに整え、膝を上げてステージに目を向けた。


「……」


(なん、なんだよ……その圧は)


ステージから吹き飛ばされ、壁に激突した上級生はレイから放たれる圧に、思わず後退ってしまった。


レイが本気中の本気ではなかったので、上級生はまだ戦えることには戦えたが……レイの目が語っていた。


もし、ステージ上がってくるなら、次は容赦しないと。


「……降参、する」


「分かった。勝者、レイ!!」


審判がレイの勝利を宣言すると、観戦していた生徒たちから歓喜の声が湧き上がった。


ただ、レイはその歓喜に手を振って応えることはなく、ステージから降りていく。


「相手が悪かった……としか言えませんわね」


「本当にその通りだよ」


適度な緊張と、油断なき心……それが会心の一点突きを放つ流れへ至った。


しかし、それを見事に読んで躱され、場外へ吹き飛ばされる。

そしてレイの「次は容赦しない」というプレッシャーは二人の元まで届いていた。


(アラッドも十分学生離れしてるけど、レイもレイで学生という枠に居ていい実力じゃないよね……二人に当ってしまった人は、ご愁傷様としか言えないね)


そんなの二人の実力を恨ましいと感じないといったら嘘にはならないが、ベルは自分に出来ることを続けるだけだと言い聞かせ、会場から離れた。

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