二百七十六話 個人戦だけで結構です

学生同士が戦う大会には、個人戦とタッグ戦がある。


魔法をメインで戦う学生たちの為に、個人戦に加えてタッグ戦が生まれた。

ルール的には個人戦で出場した学生がタッグ戦にも出場することは不可能ではないが、暗黙の了解として禁止されている。


パロスト学園の学園長としてはそんな暗黙の了解を打ち破って、アラッドに両方とも出てくれたら幸い……と考えていたが、それとなくSクラスの担任であるアレクがどうする? と尋ねたところ、あっさりと断った。


(俺がこの学園に入学したのは、フローレンス・カルロストを倒して優勝して騎士の爵位を手に入れる為。それ以上の何かをするつもりはない)


出場できる選手も一学園の中で、限りがある。

アラッドがタッグ戦に出場しようものなら、将来の為に騎士団や魔法師団にアピールしたい生徒のチャンスを潰すことになる。


ちなみに、タッグ戦に関しては片方が接近戦メインで戦う生徒、もう片方が魔法などの遠距離メインで戦う生徒と、完全に別れていなければならない。


「やはり、アラッドは個人戦に参加するのだな」


「えぇ、勿論。フローレンス・カルロストが出場するのも個人戦でしょうし……あまりタッグで戦うというのに慣れていませんので」


「……それは残念ね」


魔法をメインにして戦うヴェーラとしては、暗黙の了解を破ってでも是非、アラッドと組んでタッグ戦に出場したいと思っていた。


(でも、アラッドとタッグを組めば、あまり良くない評価を受けるかもしれない……仕方ない)


アラッドの存在がよろしくないと思っているのではなく、アラッドが強過ぎるのが問題なのだ。


魔法、魔力といった点ではアラッドに劣っているとは思っていない。

ただ……総合力という点に関しては、全くアラッドに及ばない。


そんなアラッドと組んで大会に出たとしても、周りの評価はアラッドとタッグを組んだから優勝できた。

そうなる可能性が高い。


エリザとルーフもアラッドとタッグを組んでタッグの大会に出れたらと思っていたが、ヴェーラと同じ考えに至った。


「明日からだね」


「そうみたいだな。とはいっても、一年生が出場できる割合は高くないんだったか?」


「大会は学年関係無しだからね。普通はそうなんだけど、アラッドなら問題無いよ」


明日から個人戦に出場したいと志願した者たちは学年関係無しに、同じく志願した者たちと一対一の戦いを行う。

この戦いでは刃引きしていない武器を使うため、当然この戦いで負傷する者もいる。


学園に所属している回復専門の魔法使いの腕は非常に優れており、大抵の怪我は治せてしまう。

しかし、その戦いで擦り切れた精神力……消費したスタミナまでは戻らない。


模擬戦は一日に一回。

それが連続で十五回からニ十回ほど行われる。


その戦いを教師たちが正確に観察し、評価を付けていく。

勿論、途中で戦いを辞退することも可能だが、よっぽどの理由がなければ大会出場の権利を逃すことになる。


「ありがとな……まぁ、大会に出場する前にこけたりしたら、ダサ過ぎるもんな」


訓練場には一年生だけではなく、二年生や三年生たちもいる。

休憩時間に彼ら彼女たちを観察していたアラッドだが、正直負ける気は一ミリもない。


弱い……という訳ではない。

授業でも訓練を行い、授業が終わってからも己を高めるために自己訓練を同級生たちと行っている。


そんな才能ある努力家たちが弱いわけがない……ただ、実家で生活している時にガルシアや他の購入した戦闘奴隷たち、熟練の騎士たちと行った模擬戦を思い出すと……やはり物足りなさを感じる。


(……偶に耳に入る上級生たちは、この訓練場にはいないみたいだな)


二年生や三年生の中にも、レイやベルたちのように飛び抜けた実力を持つ者たちがいる。


アラッドは確認した上級生たちの戦力に、更に身体能力や技術……魔力が強化されたら、とも考えて脳内でイメージするが……それでも、大会出場前にこけるとは思えなかった。


「リオ、レイ。二対一でやらないか」


「……オッケー。やってやろうじゃんか」


「それもまたありだ。全力でいくぞ」


とはいえ、自信満々でも気を抜くアラッドではなく、数的不利の模擬戦を始めた。

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