二百五十話 嫉妬しないか心配

シルフィーとアッシュが模擬戦を行い、アッシュが余裕で勝利した翌日……アラッドは食事の場以外でもシルフィーをチラッと見たが、おかしい様子はなかった。


(変なことは考えてなさそうだな)


先日の一戦、アッシュとしてはシルフィーが絶対にもう自分に絡んで来ない様にするために、色々と考えて戦っていた。

その考えた結果が、シルフィーの自信を折る形だった。


そんなアッシュも、午前中の最低限の訓練にはいつも通り参加している。

アッシュは屋敷の庭でアラッドたちと一緒に行っており、アラッドは訓練の最中、チラチラとアッシュの方に眼を向けていた。


「……アラッド様、どうやら訓練に身が入っていないようですが」


「あっ、すまん。ちょっと考え事というか、気になることがあって」


「謝らないでください。理由は解ってます」


いつもより集中力が欠けている事に指摘したガルシアだが、その理由は既に解っていた。


「天賦の才……と言うべきでしょうか」


「あんまりそういう言い方は好きじゃないけど、そう言わざるを得ないんだよな」


アッシュが隠れて密かに訓練を行っている、などという話は一回も聞いたことがない。


そうなると、アッシュは毎日最低限の訓練時間から、先日の様な動きを学んだ可能性がある。


(アッシュの場合、受け流しによる技術も確かに凄かった。ただ、魔法の腕だって侯爵家の令息らしい実力があるというか……先日の戦いで、動きながら使えたのでは? と思ってしまうな)


まだ八歳ではあるが、先日の戦い方を見る限り……その可能性がゼロだとは思えない。


「騎士となれば、どこまで進むのでしょうか」


「本人にその気は全くないだろうけど……もしかしたら、父さんと同じ位置までは上り詰めるかもしれないな」


アッシュが本気で強くなることに取り組めば、フールと同じ地位まで登ることは不可能ではない。

不可能ではないが、それでもアラッドの言葉通り、本人にその気はない。


他の者と訓練に取り組む目を見れば、その差は一目瞭然。


(本当に錬金術が好きだから、別に訓練に対してちょっと冷めてても、仕方ないといえば仕方ない。そこで熱を使ってれば、錬金術で使う熱が切れてしまうかもしれない)


アッシュは最低限の訓練を終え、切り上げると自室に戻って錬金術の勉強を始めた。


「フール様と同じ地位ですか……ドラング様が聞けば、発狂するかもしれませんね」


「いや、さすがに発狂したりは……いや、するか?」


父親であるフールに憧れる男、ドラング。

ドラングも屋敷で生活している頃から必死で強くなる努力を重ねてきた。


そして現在は王都の学園に入学し、先輩や同学年と刃をぶつけ合いながら成長している。

勿論、卒業後の進路は騎士。


騎士団に所属し、フールの騎士時代を超えるのが目標。


(ドラングはあのアッシュの凄さを知らない訳だし、いきなり弟がとんでもなく戦闘の才能があって、実力がある。加えて、自分よりも騎士時代のフールを越える可能性がある……なんてことを知れば、怒りでプルプル震えそうだ)


まだ……ドラングがアッシュの凄さを知らない。

だとしても、わざわざドラングにその事実を伝えようとは思わない。


ただ、長期休暇の時期に実家に帰ってきた時……その話が耳に入ることがあるかもしれない。


(ドラングはあんまりシルフィーやアッシュに興味なかったけど、自分の目標を脅かす存在となれば……話は変わって来るか? まぁ、そんなことが理由で虐めようとするなら、容赦なくぶっ飛ばすけどな)


なんてことを考えていたが、ドラングが夏や冬の長期休暇で実家に帰ってきた時に、そんなことが起きることはなかった。


ただ、ドラングが実家に帰ってきた時……アラッドと顔を合わせるのは、食事の時のみ。

現時点では……まだアラッドに挑もうとはしなかった。


そしてアラッドが十五歳になる歳の秋……家に遊びに来ていたバイアードとフールの会話が、アラッドの耳に入った。

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