二百三十話 引き戻した声
「ガァァアアアアアアアッ!!!!!」
その雄叫びはまさに獣のそれ。
完全に理性は振り切っており、ガルシアたちはアラッドの戦い方が普段通りではないと気付いた。
だが、その動きに隙はない。
狂化に加えて強化系のスキルを全て使用……そしてその身体能力を十全に活かしていた。
加えて、糸による攻撃も惜しみなく使われた。
主にスレッドチェンジで粘着性が高い糸と切れ味が高い糸が使われ、粘着性が高い糸は罠に使われた。
そして切れ味が高い糸に魔力を纏い、スレッドクロウやスレッドスラッシュ、スレッドサークルなどを使用して少しでもトロル亜種の気を引く。
そこに過去最高の力で鋼鉄の剛剣を振り、時には正拳や蹴撃をぶち込んだ。
ただ、トロル亜種も普通のトロルと比べてスピードが段違い。
いくらアラッドが普段より数段上の速さで動いていようと、捉えられてしまう時はある。
アラッドも防御系魔法を連続で使用……もしくは周囲の木々に手から糸を伸ばしてス〇イダーマンの様に回避……していたが、当たる時は当たる。
その瞬間、まだまだ軽く防御力が足りないアラッドはピンボールの様に吹き飛ばされる。
そうなる度にガルシアたちは不安を募らせ、やはり自分たちも攻略に参加した方が良いと思ってしまう。
しかしその頃には以前の模擬戦でバイアードが使用していた魔力種集中させた部分に硬化を使用する防御術を使い、なんとか骨折は免れていた。
両者ともバリバリスキルによる技を発動していたため、周囲はどんどん破壊されていき、丸裸状態になった。
本来であれば手数が多く、時々トランスを使って糸を透明にしながら確実に攻撃を当てたりしていたアラッドがやや有利なのだが、トロル系のモンスターは回復力が高い。
斬りつければ勿論血は流れるが、それでもあっという間に治ってしまう。
その強力な回復力に舌打ちをしながらも、文字通り狂戦士と化したアラッドの動きは一瞬たりとも終わらない。
ただ……この勝負、アラッドが狂化のスキルを感情の高ぶりによって手に入れたこともあり、ボロボロになりながらもアラッドはトロル亜種との戦いに勝利を収めた。
(か、勝った……いや、もしかしたらとは思っていたが、本当に勝ってしまうとは……本当に、アラッド様は底知れない方だ)
なんてガルシアたちが似た様な感想を抱いている中、最終的にトロル亜種の頭部を握り潰し、思いっきり返り血を浴びているアラッドがぐるっと顔を回してガルシアたちの方を見た。
(まずい!!!! あの状態は、狂化が解けていない!!!!)
ガルシアは狂化を使用している最中の顔がどの様な顔なのかを覚えており、アラッドの顔はその時の顔と変わっていなかった。
(魔力が切れるまで、相手をするしかないか!!)
魔力が切れれば、自ずと狂化も解ける。
だが、目の前のアラッドは容赦なく自分の武器を全力でぶち込んでくる状態。
普段から何度も模擬戦は行っているが、糸に関しては一度も使っていない。
そこを上手く対処出来るかが鍵となる。
「ワゥ!!!!」
「ッ…………ク、ロ」
しかしそこでそれなりにお値段がするポーションを使い、更にエリナが回復魔法を使用して復活したブラックウルフ……だった存在が声をかけ、なんとかアラッドを正気に戻すことに成功した。
「クロ、クロ……クロ?」
「えっと、アラッド様……その、お気持ちは解ります」
死の淵から蘇ったクロは……なんとブラックウルフからデルドウルフという非常に珍しいAランクの狼系モンスターに進化していた。
「進化した、のか……もう、なんでもいいや。生きててくれて、ありがとう」
「ワゥ」
アラッドは涙を流しながら一歩ずつ進化したクロに近づき、思いっきり抱きしめた。
その光景に釣られて兵士たちも涙を流したが、ガルシアは少ししてからアラッドに先程までの状況を事細かく伝えた。
全て聞き終えたアラッドは……トロル亜種の解体を中断し、即ガルシアたちに頭を下げた。
五人は頭を上げてくれと懇願したが、アラッドはもう一度自分の不甲斐ない行動に……ガルシアたちに襲い掛かったかもしれない状況に関して、謝罪した。
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