二百二十五話 衝撃と恐れ
「まっ、パンツも解かなかっただけ、まだ優しかったか」
そう思いながら友人たちの元へ戻る。
「騒がせて悪かった」
「いやいや、先に絡んできたのはロンバーだから、アラッドが気にする必要はないよ。面白いものが見れたしね」
「ベルの言う通りだ。アラッドが気にする必要は全くない。奴には良い薬になっただろう」
友人たちは一切アラッドを責めるつもりはなかった。
一方的にやられるロンバーは確かに滑稽だったが、面白い光景だったことには変わりない。
「二人の言う通りだぜ! にしてもアラッド……それ、凄過ぎるな!! さすがにビビったぜ」
もし、仮に自分があの技を食らったら?
そう思うだけで一瞬震えてしまう。
「ふふ、そうか。でも、俺の糸は初見殺しだからな……知られれば、対処されやすい」
「あら、そうでしょうか? 少なくとも、今のアラッドさんには自信が溢れていますよ」
マリアに本心を見抜かれ、頬をかく。
図星を隠すようにアラッドは再び高級料理を食べ始めた。
「確かに、自慢のスキルだから自信はある」
「そうでしょうね。ですが、アラッド様の実力であれば糸を使わずとも、あのような凡人はいかようにも対処出来たはずですわ」
エリザもアラッドが魔法に武技、そららの腕も尋常ではない事を知っている。
アラッドはわざと速攻で終わらせなかったが、その気になれば一瞬で……本当に一瞬で戦いを終わらせられた。
「あいつは糸を馬鹿にしたからな。普通に倒すだけじゃ、俺の苛立ちは収まらなかった」
それは紛れもない事実だった。
自分の相棒を、親を馬鹿にしたのだ。
普通に倒すだけでは、その怒りを鎮めることは出来ない。
「最初のあれだけでも、ロンバーにとっては十分屈辱だった思うよ」
「……ルーフの言うことは間違ってない」
授かったスキルが体技でないとはいえ、自信満々に振るう拳が……脚が全くもって当らない。
結果、一発も当てられないまま自身は汗だくとなり、相手は汗一つ流していない。
それは確かに十分屈辱だと言えるだろう。
「けど、普通に倒しただけだとまた糸を馬鹿にされる機会があると思ってな。パンツ一丁にされたんだ……そしてルーフたち以外もそれを見ている」
アラッドが周囲で未だに戸惑っている者たちにくるっと顔を向けると、全員が慌てて目を逸らした。
(ふふ……全員、一度は俺を見下してたからこその反応だな)
先程の一戦で、アラッドの強さは十分に証明された。
しかし、その内容があまりにも凄過ぎた。
同じ歳……そこは絶対に変わらない条件。
にも拘らず、一度も攻撃が掠ることなく全てを躱し、汗一つ流さない。
そんなことがあるのか?
この歳になれば、才能は平等ではないことぐらいは分かる。
だが、それでもあんな結果になり得るのか?
両者の戦闘力があまりにもかけ離れ過ぎていた。
それはこの場にいたベルたち以外の子供たちに対し、衝撃と恐れを与えた。
「多分だけど、もう糸を馬鹿にするやつは現れないだろ」
「はっはっは! 確かにそうかもな。実際に最後は首を絞めた訳だし、あれは強さを証明する攻撃だった。ロンバーのやつ、これから毎日夜はそれでうなされるんじゃないか?」
「それはどうだろうな。でも、そうなったらそうなったで、特に大した目的もないのに絡んできたロンバーが悪い」
「その通りね」
ヴェーラもアラッドの強さは、戦闘力の高さは知っている。
故に己の譲れない意思を突き通す……などの覚悟がない限り、ハッキリ言ってアラッドに絡むのは無謀であり、自業自得。
(彼、立ち直れないかもしれないわね)
過去にこういった場で十を越えない子供に限らず、場違いの戦いと言うのは振り返れば何度か行われていた。
ただ…………その結果が、パンツ一丁になって敗北というのは初めて生まれた決着内容だった。
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