百九十九話 仕える騎士の苦労

(……ふふ)


優しいおばあさんの店を出た後、ご厚意で貰った指輪を見ては……レイ嬢は心の中で笑みを浮かべていた。


(やっぱり良い指輪だな……俺が造る物とは雲泥の差だ)


アラッドはアラッドでおばあさんが直々に作った指輪の装飾や外見に見惚れていた。


最近ではポーションだけではなく、採掘できるようになった金属などを使ってマジックアイテムの指輪などを造ろうと頑張っているが、中々会心の一作は造れていない。


そんなアラッドにとって、おばあさんから貰った指輪は目指すべき目標の一つとなっていた。


(もっと錬金術の腕も磨かなとな……造った物は、ガルシアや兵士たちに渡せば良いか)


今の腕では、アラッドが造ろうと思っているマジックアイテムは到底作れない。


その為に腕を上げる方法として、指輪やネックレスタイプなどのマジックアイテムを造るのは良い訓練に繋がる。

そして大量にマジックアイテムを造ってしまったとしても、身内にはそういった強化系のマジックアイテムを必要としている者たちが多い。


リンもアラッドの狩りに付いて行かない日は専用の鍛冶部屋で日々武器を造っているので、どんどん武器が倉庫に増えていくが……品質は悪くなく、寧ろ良質寄りなので兵士たちがわざわざ金を払い、リンから格安で購入している。


「レイ嬢、次は何処に行こう……か」


マジックアイテムに関しては二人とも超満足出来る物をゲットしたので、次へ違うジャンルのところに行こうかと考えていた。


そしてアラッドがそれを相談しようとしたところで……目の前から自分たちと同年代であろう貴族の令息と、後ろに騎士二人が立っていた。


「やぁ、レイ嬢。お久しぶりです」


と、令息はレイ嬢がアラッドと二人で街中を歩いている……通称、デートをしているにも関わらず、堂々と声を掛けてきた。


(こいつは……誰だ??)


当然、レイ嬢に声を掛けてきた令息はアラッドは知らない。


「……………………ネガール、だったか」


声を掛けられた本人は真剣に過去に記憶を掘り返し……時間は掛かったが、なんとか声を掛けてきた令息の名前を思い出した。


令息の名はネガール・レンバルト。

この街の領主の息子であり、次男。


そして……どこからどう見てもデート中である二人に声を掛ける辺り、レイ嬢に惚れている。

アラッドのことは眼中になく、完全に無視状態。


「覚えて頂き光栄です。今日は天気もよろしいですし……良ければ、自分と一緒にお茶でもどうでしょうか。勿論、そちらの令息も一緒で構いません」


一応丁寧な言葉づかいではあるが……目線からアラッドを少々見下してるのが窺える。


(……レイ嬢は大人気だな。んで、俺が見下されてる理由は……あんまりパーティーに参加してないからか?)


パーティーに参加したのは過去に一度だけ。

その際も他の令息や令嬢と関わることはなく、食べ放題の高級料理に夢中であった。


そしてアラッドの同い歳であるドラングが主に子供たちの間で、アラッドの評価を下げていることもあり……親世代の間ではフールが激褒めしているので高評価の印象を持たれているが、子供たちの間では大半の子供たちが低い評価を下している。


ただ、低い評価や印象を持たれている当の本人は……子供が一生懸命になって自分を見下そうとし、惚れている子に自分の方が凄いだろうという印象を与えようとしている姿に、微笑ましさすら感じる。


(可愛らしいとは言わないが、本当に子供っぽいな……子供なんだから当たり前かもしれないけど。ただ、後ろの騎士二人は顔色が良くないというか、居心地悪そうというか……あっ、グラストさんがちょっときつめの殺気というか警告の念? を送ってる)


ネガールの護衛として同行している騎士二人はまだ若く、二人にとってグラストは大先輩。

そして前情報では、大大大先輩であるバイアードも来ていると報告を受けている。


そんな二人からすれば、ネガールの暴挙を今直ぐにでも止めたい。

勿論、ネガールの行動は父親であるナーガ・レンバルトに背中を押されたものではなく、寧ろ現在の状況を知れば何がなんでもネガールを屋敷に連れ戻す。


「断る。私は今、アラッドとの散策を楽しんでいる。邪魔しないでほしい」


アラッドが見下されている事にはレイ嬢も気付いており、少々語気を強めてネガールの誘いを断った。

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