百八十五話 それで随分と儲かったから
「まいど。それじゃ、試してみてくれ」
本当に金貨十枚を払うと思っておらず、店主は少々驚いた表情になりながらも金貨十枚を頂き、アラッドに剣に魔力を込める許可を出した。
「すぅーーー、はーーー……すぅーーー、はーーー」
深呼吸を繰り返し、呼吸を整え……いざ、魔力を込める。
基本的に成功することはないだろう……と予想していた気持ちがフラグとなったのか? 剣はアラッドのことを主と認めた。
「……おうおう、マジか。凄いな、少年」
「え、いや……その……ど、どうも。ありがとうございます」
店主も目の前の光景には驚かされたが……やや納得している部分はあった。
(そこら辺の貴族の坊ちゃんではないと思ってたが……この剣が認めたってことは、これからまだまだ強くなる可能性を秘めていて……尚且つ、剣がこいつの人生は面白そうだって認めたのかもしれないな)
剣に意志があるのか……そこまで詳しいことは分からない。
だが、元冒険者である店主はその可能性があってもおかしくない……と思えた。
実際、剣に魔力を纏わせる為に金貨十枚を払った客は、アラッドで数人程度ではなく、今まで百人ほどの客が試しに魔力を込めた。
その結果、アラッドの様に剣が自分の持ち主に相応しいと認めることはなく、ただただ金貨十枚をどぶに捨てることになった。
「ん? おぉ!?」
剣がアラッドを主と認め、徐々にアラッドの体格に合う様に……剣のサイズが変化。
そして鞘も同じく大きさを変え……アラッドにピッタリのサイズとなった。
「おぉ~~~~~……凄いな。まさに少年を主と認めたからこそ、扱いやすい形へと変化した……ってところか」
「そう、なのかもしれませんね」
元々は大人が扱うサイズの大きさであり、アラッドが扱うには流石に大きい。
勿論、アラッドの腕力を持ってすれば、持ち上げることは可能である、振り回すことも問題無い。
だが、器用に扱うにはやはりサイズが大き過ぎる。
「あっ、お代はいくらですか」
「……タダでいいぞ」
「えっ!? いや、あの。それはいくらなんでも……よろしくないと言いうか」
「ほら、試しに魔力を纏うには金貨十枚を貰ってただろ。あれのお陰で随分と儲かってたんだよ」
店主の話は嘘ではなく、本当に使い手を選ぶ剣のお陰で懐がかなり温まっていた。
「だから、お代は結構だ。面白い光景も見れたしな」
アラッドがまだまだ子供なので、大人サイズの剣では扱いづらい。
という理由で、自動的にサイズ変更が行われた。
そんな機能があるとは店主も知らなかったので、アラッドが持ち手に認定されて良かったと思う部分はある。
(今まで何人か少年と同じく、貴族の坊ちゃんが試してはくれたが、皆もれなく駄目だったからな)
実はレナルトの領主の息子も試していたのだが、失敗して少し涙を流してた。
「……分かりました。それでは、もう一度金貨十枚だけ払わせてもらいます」
「おいおい……ったく。律儀だな~、少年は。ありがたく貰っとくよ」
ここで必要ないと返すのもあれだと思い、店主はアラッドの気持ちを受け取った。
「アラッド。ど、どうなんだ……や、やっぱり他の剣とは違う感覚なのか?」
「お、落ち着いてください、レイ嬢」
持ち主を選ぶ剣がある……というのは、レイ嬢も知識として頭に入っていた。
だが、今までそういった剣を実際に見たことはなく、持ち主と選ばれた剣士にも会ったことがない。
故に……持ち主として選ばれたアラッドに質問攻めしたい状態。
「その、まだ俺もこの剣に認められたばかりで、あまり詳しいことは分らないんですよ」
「む、それもそうか……すまない、少し興奮していた」
「いえ、それは仕方ありませんよ」
アラッド自身も、持ち主を選ぶ剣を実際に見れ……尚且つ、剣に選ばれたことに対して非常に驚いている。
レイ嬢の前ということで、表面上は冷静さを保てているが、いつも以上に心臓の鼓動が速い。
ただ……まだ解らない事ばかりではあるが、一つだけ他の武器と違う点だけはハッキリとしていた。
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