百八十二話 とりま、似合うか心配
勇者が悪魔を倒し、姫を救い出すシーンを迎え、劇は終了。
フィナーレを迎え、観客達は盛大な拍手を送った。
勿論、アラッドと令嬢も一回の公演に全力を尽くした役者たちに心の底から拍手をおくった。
「意外と、良いものだった」
「アラッドは、演劇を見るのは初めてだったな」
「えぇ、そうですね。自分で選んでおいてあれですが……楽しかった。レイ嬢はどうでしたか」
「勿論楽しめた」
今回の演劇は、過去に一度見たことがあった。
だが、それでももう一度見ればその時の興奮がまた蘇る。
しかし……今回は、隣で予想以上に演劇を見て楽しんでいたアラッドの表情を見れたことが、良い思い出となった。
「次は、何処に行こうか」
演劇を見ただけで今日のデートが終わる訳はなく、次の目的地は二人で話し合って決めた。
場所はアクセサリーが売っている店。
その前に、二人は道中で営業している露店で小腹を満たした。
「買い食いというのも、悪くないな」
「レイ嬢は、あまり買い食いしたりはしないのですか?」
「……そうだな。あまり家から出ることも多くない。逆に、アラッドは良く買い食いをするのか?」
「狩りから街に帰って来て、屋敷に戻るまでに食欲に負けた時は……少しつまんでしまいますね」
毎回の狩りが、満足する結果になるとは限らない。
それでもモンスターを相手に動き続ければ、必然的に腹は減る。
屋敷に帰ればシェフが味と量がキッチリ保証された夕食を用意している。
だが……それでも屋敷に着くまで美味い匂いに、食欲に負けてしまうことは少なくない。
「狩りが終わってから、か。それだと、夕食が食べきれないのではないか?」
「そんなことありませんよ。夕食は夕食できっちり全部食べます」
なんなら、日によっては買い食いをした時でもおかわりをすることがある。
さすがに食べ過ぎだと思われるかもしれないが、毎日動き続けているアラッドは全て消化しているので、まん丸なおデブちゃんになることはない。
「……凄いな」
「まぁ……毎日動いてますからね」
それはレイ嬢も同じ。
だが、食事の量は女性なので……一応気を付けてはいる。
「こことか、どうですか?」
「うむ、良さそうだな」
二人の目の前にはレナルトの街でもトップスリーに入るアクセサリーの高級店。
普段のアラッドであれば、よっぽどのことがない限り入ることはない店。
しかし本日はレイ嬢という、どこからどう見ても気品溢れる貴族の令嬢と分かる女の子と一緒。
アラッドは迷うことなく高級店に足を踏み入れた。
(何年か前に、領地のこういった店に訪れたけど……本当にキラキラしてるな)
屋敷の中もそれなりにキラキラとしているが、アクセサリー店の内装はそれを上回っていた。
「アラッドは、普段から何か身に付けたりはしない……のか?」
「そうですね……今のところ、あまり身に付けようとは考えていません。興味がゼロというわけではありませんが」
ハンターとしての活動を始めれば、いずれ身に付けようとは考えている。
今はまだ自分を鍛える期間。
そういった物に頼れば、せっかく成長できる機会を潰してしまうかもしれない。
といった思いがあり、アリサから誕生日のプレゼントとして貰った風の腕輪以外は身に着けていない。
ただ……他にもアクセサリー系のマジックアイテムを身に付けない理由があり、それは……単純に自分が身に付けたらダサく見えるのではないかと思いがあるから。
「レイ嬢は……興味ありますか」
「アラッドと同じく、ゼロではない。ただ、あまりジャラジャラと身に着けるのは良くないと思っている」
「そうですね……とても同意できます」
人によりますが、と言おうとしたアラッドだが……それではレイ嬢にそういったスタイルは似合わないと言っているのと同じだと思い、言葉を濁した。
(あれは……)
多少興味はあるので店内の商品を物色していると、一つのマジックアイテムに意識が向いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます