百七十八話 貴族だから、仕方ない

無事にレイ嬢との狩りを終えたアラッドは宿に戻って夕食を食べ終わると、日課のポーション造りを部屋で行っていた。


「……アラッド様」


集中しているアラッドに声を掛けるのは申し訳ないと思いながらも、ガルシアは気になっていることを尋ねた。


「なんだ、ガルシア」


「その……アラッド様は、今回の旅行といいますか、狩りといいますか……た、楽しめてますか?」


「ん~~~~……それは、どういう意味だ?」


アラッドはガルシアの質問の意図があまり理解出来ず、そのままポーション造りを続行。


「な、なんと言いますか……アラッド様が楽しめてないと、今回の狩りにアラッド様が参加した意味はあるのかと思いまして」


ガルシアは率直に自分の疑問を口に出した。


それに関してはガルシアの隣に立つシーリアも同じことを考えていた。

確かに行っていることは、あまり普段の狩りと変わらないかもしれない。


だが、二人には少しアラッドが窮屈そうに感じていると思った。


「……まぁ、確かに普段の狩りと比べてやりづらいというか、気を使うというか……そういった感覚はある」


ガルシアの感じた違いは間違っていなかった。


今回の狩りは少しやりづらい。

普段の狩りの方が楽だと感じる。


だが……だからといって、今さからレイ嬢との約束を破棄するわけにはいかない。


「ただ、やりづらいという感覚があったとしても、それを理由にして解散するのはちょっとな……どう考えても、父さんに迷惑を掛けてしまう」


「うっ……そ、それはそうかもしれませんね」


よくよく考えれば、それぐらいはガルシアでも容易に想像出来てしまった。

主は自身を買ってくれたアラッドだが、主人の父親であるフールも良識がある人格者だと認識している。


「それにな……俺は貴族だ」


「えっと、そうですね」


「俺は貴族の一員だからこそ……こういった他家との関係に巻き込まれるのは仕方ないんだ。平民として生まれていればそういった家と家の関係で悩む必要なんてなかったと思うが……俺は貴族として生まれた分、平民たちよりも良い暮らしが出来ている」


一般的な平民がどの様な暮らしをしているのか、そこまで深くは知らない。

だが、自分と比べて多くのことに関して選択肢が少ない。

諦めないとならない状況が多い……それぐらいは解る。


故に……こういった本当はそこまで関わりたくない他家との合同作業ぐらいで、あまり文句を言ってられない。


「良い暮らしをしている分……そういった問題に直面して、対応しなければならないんだよ」


「…………すいませんでした、俺如きが変に意見して」


「いや、ガルシアが俺のことを心配してくれてるのは素直に嬉しいよ。でも……俺が実家にいる間はずっと領内に籠っている訳にもいかないから、今回みたいに他家からの誘いを受けて了承しなければならないことも多い」


とはいえ、アラッドも本当に受けた誘いが嫌であれば、バッサリと断っている。

何だかんだで今のアラッドには多少の誘いぐらいであれば、断る力はある。


裏的な意味合いでの権力は大きいが、表の意味でも知っている者は新しい料理を多く発案した人物がアラッドだと分かっている。

加えて、多くの貴族が参加するパーティーの最中に、殆どの貴族が一度は耳にし……騎士であれば全員が名を知っているバイアードから興味を持たれた。


仮に変に絡もうとしたら、どういった制裁がくるか分からない。

三男という、あまり令息としての立場は高くないが、非常に子供にしては例外的な力を持っている。


「で、であれば……その、アラッド様はこれからも他家のご令嬢様から、お誘いをされるかもしれない。ということでしょうか?」


「そういうことだな……俺はまだまだ婚約も結婚するつもりもないんだが……貴族だから、仕方ない」


貴族は早い段階で、他家の娘と婚約することが多い。

それが常識というのは分かっているが……元日本人の工藤英二としては、中々受け入れがたい常識なのだ。

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