百七十六話 そこは見せられない
「お疲れ様です、レイ嬢」
「いや、このぐらいであれば大した労力は使わない。何より……彼女の力が大きかった」
レイ嬢が通常種のゴブリンに集中している間は、シーリアは魔力弾の威力を上手く調整し、死角からの攻撃を狙っているゴブリンを上手く弾いていた。
お陰でレイ嬢がゴブリンから攻撃を受けることはなく、ゴブリンはなす術もなくレイ嬢の斬撃でボコボコにされた。
「そう言って頂けると、シーリアも嬉しいでしょう。さて、俺はゴブリンの魔石を取り出しますが……レイ嬢はどうしますか」
アラッドは若干言葉を濁し、レイ嬢もゴブリンの体を解体し、体内から魔石を取り出す作業を行うのかと尋ねた。
「む、それは…………アラッドが、取り出すところを見ていても構わないか?」
「えぇ、勿論構いませんよ」
レイ嬢は今までモンスターとの戦闘経験は少しだけあるが、モンスターの死体を解体した経験は全くない。
初めてモンスターを殺した時、その感触に悩まされ……吐きかけた。
そして、モンスターの解体作業を行えば、絶対にどこかで吐いてしまうと確信している。
レイ嬢の乙女の部分が、アラッドの前で吐くのだけは避けなければと思い、魔石の取り出し作業を行わないという選択を選んだ。
だが、一人だけ解体作業を行わないというのはよろしくないと思い、アラッドがゴブリンの死体を解体する様子を観察するという選択を選んだ。
(もしかして、モンスターの内臓とかを見るのはあまり慣れてない感じか? まぁ、俺みたいにこの歳でがっつり慣れてる方がおかしいんだよな)
ただ、今では慣れているアラッドでも思いっきり吐いたことはある。
なので仮にレイ嬢が解体する様子を見て、吐いてしまっても特に思うところはない。
しかしアラッドの考えと、女性の乙女な部分の話はまた別。
死体を一か所に集めたアラッドは直ぐに解体作業を始めた。
その腕は非常に慣れており、後ろで解体の様子を見学していたバイアードは思わず感嘆の声が漏れた。
だが……ここで事件が発生。
アラッドがどれだけ上手くゴブリンの体を裂いて魔石を取り出しても、見学していれば死体の中身を見えてしまう。
その光景にレイ嬢の我慢が限界に達し……たのをバイアードはいち早く察知。
孫娘を両手で抱えて移動し、護衛の騎士が腕に身に着けているマジックアイテムのブレスレットの効果を発動し、数秒間だけ自身の周囲の音を消した。
バイアードと騎士のナイスな連携により、レイ嬢はアラッドによろしくない場面を見せずに済んだ。
そしてもう一人の騎士が水筒から口内をゆすぐ用の水を用意し、シーリアが気を利かせて風の魔力を使用して匂いを飛ばした。
「魔石の解体だけだと、こんな感じで結構早く終わります」
「う、うむ。流石としか言えないな」
「今まで何度もモンスターの死体を解体してきましたかね。慣れればこれぐらいは難しくありませんよ」
アラッドはレイ嬢に良い手本を見せようと思い、かなり魔石の回収作業に集中していたので、レイ嬢が一旦見学から離脱していたことを知らなかった。
こうしてアラッドがレイ嬢の乙女らしからぬ行為に気付いてないと確認し、一同はホッと一安心……中でも、我慢に限界が来てしまったレイ嬢が一番安心していた。
(あ、危なかった。くっ、おじい様たちがいなければアラッドの前で情けない姿を見せてしまうところだった……皆に感謝しなければならないな)
バイアードが素早くレイ嬢を動かした瞬間、ガルシアたちはまるで事前に打ち合わせでもしていたかのように、アラッドが後ろを振り向いてもレイ嬢のバリゲートになるように並んでいた。
レイ嬢が難を逃れてからもモンスターの討伐と解体は続き、なんとかレイ嬢はバイアードたちの手を借りずに過ごし……モンスターの解体光景を見ることに関して耐性が付いた。
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