百七十四話 いつ、そんな敵と出会うか
冒険者ギルドの訓練場で何度も模擬戦を行った後、湯船で疲れを落としたアラッドたちは宿の食堂に集まっていた。
といっても、一つのテーブルに集まっている面子はアラッドとグラストとレイ嬢、そしてバイアード。
ガルシアとシーリアは立場としては奴隷なので、こういった場では同じ席に座れない。
それを不憫に思ったダリアとモニカは夕食を部屋に持ってきてもらい、四人で夕食を食べていた。
「アラッドの武器使いに本当に驚かされた。どの武器も一流以上の腕だった……いったいどんな訓練をしているのだ?」
実際のところ、本当の一流から見ればまだまだ拙い部分はある。
だが、まだ七歳という年齢を考えれば……レイ嬢が未だ驚きの熱が冷めないのも仕方ない。
「……訓練の合間に基本的な動作を積み重ね、実際に模擬戦でも使う。そして……弱いモンスターを相手に実戦で使い、徐々に戦う相手の強さを上げていく。といった流れですね」
アラッドとしては、特に特別な修行をしているとは思わっていない。
ロングソードや体術と同じ様に、普段の訓練から腕を磨き……最後は実戦で仕上げていく。
それの繰り返しを行っていけば、自然とそれなりに扱えるようにはなる。
「やはり、何度聞いてもモンスターを相手に実戦で戦っているという事実には驚かされる」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。だが……レイ嬢も、既にモンスターと戦ったことがあるのであろう」
今回、レナルトという街に集まり、初めて一緒に狩りを行う。
レイ嬢の性格から、足手まといにならない様に調整してくるとは思っていた。
ただ……それよりも、少し前までと比べて雰囲気が少し違う。
本能がその少しの違うに気付いた。
「ふふ。そこに気付いてくれるのは嬉しいぞ」
「はっはっは! さすがアラッド君じゃな。そこを乗り越えた者は大なり小なり雰囲気が変わるものだが、まさか一目で気付くとは」
「以前、手合わせした時よりも少し力が強くなっていましたし、今日一日で気付ける部分がありました」
短期間で身に付く力ではない。
特にマジックアイテムを身に着けていなかったので、上がった力の要因は一つに絞られた。
レベルアップによる身体能力の向上。
「そこを見抜くだけでも大したものよ。グラストもそう思わんか」
「えぇ、アラッド様は実戦的な実力だけではなく、観察眼も優れているかと」
二人してアラッドのことを褒め、当の本人は少し恥ずかしい気持ちを持っているが……まだまだ自分が敵わない人たちから褒められるのは、やはり嬉しかった。
(有難いお言葉だけど……そうやって、外堀を埋めようとする感じは是非とも止めてほしい)
バイアードもグラストも、アラッドの気持ちを理解しているので騎士の道を選ばそうとはしていない。
グラストにいたっては、アラッドが日々努力を重ねて自信の実力に驕らない姿勢を尊敬しているからこそ、単純に褒めているだけだった。
「アラッドは……モンスターと対峙して、怖いと感じたことはあるか? 私はある」
レイ嬢の立場を考えれば、あまり他家の者に弱みを見せてはならない。
だが、アラッドであればそれを知られても構わないと思い……モンスターに恐怖を感じた事実を伝えた。
そして、アラッドは恐怖を感じたのかを尋ねた。
「…………まだ、ないかもしれない。いや……まぁ、そうだな。心底恐ろしいと感じたことはないと思う」
初めてCランクのモンスター……メタルリザードと戦った時は、クロと一緒に戦ったとはいえ若干の圧を……強さを身に染みて感じた。
だが、恐怖で体が固まってしまうほどの衝撃はなかった。
(オーアルドラゴンについては隠しとかないとな)
しかし、今の自分では絶対に勝てない。
そう感じさせる存在感を放ち、実際問題として全く勝負にならないモンスターと遭遇したことはあった。
「アラッド君ほどの実力であれば、心の底から恐ろしいと感じる相手とは中々出会わないかもしれんな」
「慎重に動いてるだけです。あまり無理をすれば……進むと決めた道が途絶えるかもしれませんから」
一見、万能に思えるかもしれない糸も、どんなモンスターが相手でも有効打になる訳ではない。
冒険者になる前に死んでしまっては元も子もない。
そう考えているアラッドだが……アラッドの戦歴を知っているグラストからすれば、少々頭の上にはてなマークが浮かぶ言葉だった。
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