百七十一話 とりあえず休憩しましょう
「バイアードさんと戦ってるご令嬢が、アラッド様の婚約者候補の方なんすね」
「ダリル、変な言い方をしないでくれ。今は……知人といった仲だ」
「今は、なんすね。だったら将来的にはまだどうなるか分からないじゃないっすか」
バイアードと模擬戦を行っているレイ嬢を見て、ダリアはアラッド程ではないがそれでもいずれは強者の部類に入る力を持っていると感じた。
(アラッド様は友人止まりで良いって感じっすけど、別に嫌な表情はしてないんだよな~~……他の三人の令嬢がどういった方たちなのかは分からないけど、レイ嬢とは気が合いそうっすけどね)
パッと見ではあるが、ダリルの直感がアラッドとレイ嬢はお似合いだと告げた。
「アラッド様、声は掛けないんですか」
「まだ二人ともバチバチに戦ってるからな。あの模擬戦が終わってから声を掛けようと思う」
バイアードとレイ嬢は模擬戦に集中してアラッドたちが訓練場に到着したことに気付いていないが、ダリアやグラストと同じ護衛の騎士たちは既に気付いており、お互いに軽く会釈を交わしていた。
そして約一分後、ようやく二人の模擬戦が終了。
結果は勿論バイアードの勝利。
年齢的に全盛期を過ぎてはいるが、まだまだ二十を過ぎていない子供に後れを取るほど耄碌していない。
ただ、周囲で二人の模擬戦を観戦していた冒険者たちはまだまだ子供であるレイ嬢の強さに驚かされた。
ある程度戦闘経験を積んでいる冒険者であれば、武器と武器が重なり合う音でどれだけの威力……重さがあるのか分かる。
レイ嬢が放つ一撃は……どう考えても子供が放つ威力ではない。
冒険者たちは勿論レイ嬢が特異体質だということは知らない。
ただただ、このまま順調に成長すればいずれ自分たちを追い抜く逸材だと……とんでもない素材が現れたと、ただただ圧倒されていた。
そして遂に二人はアラッド一行が訓練場に到着していたことに気が付き、模擬戦を行っている時の表情とは打って変わっる。
顔に疲労が浮かんでいたレイ嬢はアラッドと久しぶりに出会えたことが嬉しく、一瞬で顔から疲労が吹き飛んだ。
バイアードもアラッドと久しぶりに会えたことが嬉しいが、それ以上に久しぶりに顔を見た面子もいるので、思わず頬が緩んでいた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。アラッド、久しぶり、だな」
「あぁ、レイ嬢。お茶会で出会った時以来だ。色々と話すことはあるかもしれないが、今は少し休んだ方が良い。バイアード様との模擬戦は物凄く体力を消費した筈だ」
「むっ……そうだな。済まないが、少し休ませてもらう」
ダッシュでアラッドの元までやって来たレイ嬢は挨拶も早々に、早速アラッドと模擬戦を行おうとしていた。
だが、アラッドの言葉で現在自分が大きく消費している。
今の状態でアラッドと模擬戦を行っても、きっと良い試合が出来ない。
頭が冷静になり、アラッドの言葉通り水分を取りながら少し休息をとることにした。
「はっはっは! 私の孫娘は少し熱くなり過ぎていたようだな……ふふ、久しぶりだな。アラッド君。それにグラストとダリアも久しぶりだな。息災か?」
「お久しぶりです、バイアード様」
「お久しぶりです。アラッド様といれば、楽しい日々が味わえますので誠に息災です」
「グラストさんに同じっす。本当に楽しいというか、驚きが一杯っすね」
「ッ!?」
グラストとダリアの言葉を聞いたアラッドは目を見開きながら、二人の方にぐりっと顔を向けた。
(二人とも、頼むから余計なことを言わないでくれ)
という圧を発しているが、二人は華麗にスルーしていた。
毎日楽しく、驚きが一杯というのは決して嘘ではなく二人の本心。
後ろで待機している魔法使いのモニカも同意するように頷いていた。
「そうかそうか。二人がそう言うならば、間違いないだろう。それにしても……アラッド君、今回はレイの誘いに応じてくれてありがとう」
「いえいえ、レイ嬢からお誘いされては断る訳にはいきませんよ」
特に他意はない。
こう答えるのが無難だろうと思いながら答えた。
ただ、この回答からバイアードはアラッドとレイの仲がそれなりに良好なのだと思ってしまった。
そして数分の間軽く話し合っていると、復活したレイ嬢が早速アラッドに模擬戦を申し込んだ。
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