百六十八話 この戦力なら……
(……ちょっと緊張するな)
現在ガルシアは馬車の外で歩きながら周囲を警戒している。
一人は馬車の中に……ダリアがアラッドと話し相手になっており、馬車の外には馬を動かす者も入れて四人が周囲を警戒している。
(シーリアは俺以上に緊張してるみたいだが、大丈夫か?)
シーリアより前を歩いているので顔は見えないが、緊張しているということだけは顔を見ずとも分かる。
(まぁ、いざとなれば戦えるか。それに騎士団長のグラスト様……それに魔法使いのモニカさん。この二人がいれば、敵わない敵など殆どいないだろ)
慢心している……と、思われるかもしれない。
だが、ガルシアは冷静に自分の実力を分析し、同じ護衛仲間の者たちの実力を考えた結果、そう思えた。
(モンスターの群れとかが襲ってくるなら、それはかなり不味い状況だが……いや、集団戦こそアラッド様の糸が本領発揮される場面か)
ガルシアもアラッドの狩りに参加したことがあるので、アラッドの糸がどれだけ有能なのか知っている。
そしてリンと同じく、何も知らない状態で糸を使われれば、模擬戦で負けていた可能性がある。
心底そう思える程、糸というスキルが恐ろしく、そのスキルを正確に扱うアラッドも恐ろしいと感じた。
(モンスターの群れといっても、EランクやDランクぐらいのモンスターならアラッド様のスレッドサークルでサクッと殺せるよな。そして体が大きくてそれなりに防御力があるモンスターは俺たちが相手をすれば……いや、そういったモンスターこそアラッド様が戦いたい相手か)
まだアラッドと一緒に生活を始めて一か月も経っていないが、アラッドが強者との戦いを楽しんでいることは解った。
やはり、どんなモンスターが襲ってきても……数が多くとも、自分たちとならなんとか出来る。
視界に映ったクロという頼れる存在を思い出し、余計に強く思った。
(リンの言ってた通り、やっぱり普通のブラックウルフじゃないよな。もしかして、これから進化するのが確定している存在なのか?)
ガルシアはまだそこまで正確に変化を感じ取れないが、解る者にしか解らない感覚がある……ということだけは知っている。
(俺たちは……偶々かもしれないけど、アラッド様には何か珍しい存在とか、強い存在を引き付ける力というか……引力、でもあるのかもしれないな。これから出会うイグリシアス家のご令嬢や、令嬢の祖父も強いんだよな……やっぱり、何か持ってるか)
言葉では言い表せない何か。
ガルシアはそれをお我らが主人であるアラッドが持っていると思えてならない。
「ガウッ!!」
なんてことを考えていると、いきなりクロが吠えた。
そして護衛たちはクロが何に対して吠えたのか気付き、一気に臨戦態勢に入る。
(これは……完全に俺たちを狙っているなら)
自分たちに視線を向けている者たちに逃げる様子はなく、敵意全開でこちらを見ている。
「俺が出ます」
ガルシアは迷うことなく申し出た。
「分かった」
そして護衛たちの中でまとめ役であるグラストは止めず、ガルシアが一人で倒しに行くことを許可した。
「……オークか」
人型の豚モンスター。
体はそこそこ大きく、力が強い。
そして他種族の異性に対して性欲が爆発するため、女性から嫌われているモンスターの中で確実にトップスリーには入る。
だが、ガルシアにとっては下に見る意味で体格も力の強さもそこそこ。
数は三体だが、ガルシアにとっては数の暴力にすらならない。
「ブモォオオオ!!!」
「悪いが、後ろには行かせないぞ」
負けるとは思わないが、それでもガルシアの後ろにはモニカとシーリア……女性が二人いる。
という訳で、ここで時間を無駄にしない為にもガルシアは身体強化のスキルを使って一瞬でオークの視界から消え、三体の首を刈り取った。
自分の身に何が起こったのか訳も分からず殺されたオークは、その後のアラッドたちによって美味しい夕食へと変わった。
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