百五十八話 全員、自分より強い
重い空気のまま屋敷の到着し、直ぐに夕食の時間。
アラッドは一旦奴隷たちを自室に送り、料理人たちに人数分の夕食を部屋に送っておいてほしいと頼んだ。
そして夕食中、ずっと購入した奴隷たちのことばかり考えていた。
いや、正確に言えば奴隷たちの強さについて考えていた。
(……どう考えても、全員俺より強いよな)
鑑定の効果が付与されたモノクルで調べたわけではない。
司会者がいったいどんな力を持っているのかを説明し、そして実際に自分の眼で視た。
(今のところ、全力で戦っても……上手くいけば、搦手で一勝ぐらいは出来るか? でも、根本的な地力の強さがな……)
今回のオークションでアラッドが購入した奴隷たちは、全員一定以上の戦闘力を有している。
(あのエルフの妹の方なら、割と勝てるか? いや、人は見た目によらないというか……これでも魔力量は多い方だと思ってるけど、あの二人の方が断然上だよな)
魔法に優れた種族であるエルフに魔力量で負けることは、全くもって恥ではない。
一般的な視点で考えれば、アラッドが七歳の子供にしては魔力の総量が多過ぎる。
(というか、体格的にあのハーフドワーフの女性の人はエグイというか……マジで大人になってからじゃないと身体能力面は勝てないよな。ちょっと筋肉質だし)
ドワーフという種族は比較的背が低いのが特徴だが、ハーフである女性……リンの身長は約百九十。
現在のアラッドとでは、当たり前だが子供と大人以上の差がある。
(後、虎人族の兄の方も体結構大きかったよな。ムキムキマッチョマンって感じじゃないけど、結構がっしりした筋肉を持ってた。そういえば、毛がちょっと赤かったな)
獣人の一種である虎人族の毛並みは基本的に茶色。
だが、アラッドがオークションで落札した兄と妹は揃って毛並みの色が違った。
(それに、妹の方は毛が完全に白だったな……顔もちょっと綺麗系? だった。あれは性欲マックスな人でなくとも、惹かれた人はいただろうな)
アラッドの考えは間違いなく、単純な見た目や戦闘力で欲しいと思った参加者はいた。
しかし、そんな思いを断ち切る様にアラッドが大金を宣言した。
(そういえばリンは鍛冶が出来るって言ってたな……ヒヒイロカネは錬金術でどうこうしようとは思わない……てか、現時点でどうこうしようものなら、絶対に後悔する)
本日サラッと大金を消費したアラッドだが、流石にちょっと使い過ぎたかなとは思っている。
そして購入額の約三分の二を占めるのがヒヒイロカネ。
超超超激レアな鉱石を無駄にしてしまったら、アラッドは一生後悔し続ける。
(鍛冶の才能はピカ一的なことを司会者の人が言ってたから……将来的に、ヒヒイロカネを預けて何か武器を使ってもらうのもありだな。俺が造ろうと思ってる作品には……うん、ヒヒイロカネはちょっと勿体ないというか、ランクが高い鉱石を使うとしてもミスリル鉱石ぐらいがベストかな)
毎日錬金術の鍛錬も欠かさないアラッドには将来的に造りたいマジックアイテムがある。
ただ、仮に超一流の錬金術師の域に到達したとしても、その作品を造る為にヒヒイロカネを使おうとは思えない。
(ふっふっふ。これからはグラストさん以外にも何度も負けるだろうな……本当に、良い特訓が出来そうだ)
圧倒的な速度で強くなっていくアラッドだが、現段階ではレベルや体格的な問題で勝てない者は数多く存在する。
二日に一度モンスターとの戦闘を欠かさないが、体質ゆえにレベルが他人よりも上がりにくい。
その分レベルアップした時の恩恵は大きいが、身体能力の上昇幅が大きいほど、自分のイメージより体が動き過ぎてしまうことがある。
アラッドはまだその変化にあまり慣れておらず、レベルアップしたばかりの時は何度も勢い余って転びそうになる。
(きっと良い物が買えたのよね……後で聞いてみましょ)
アリサはまだアラッドがオークションで何を競り落としたのか知らない。
だが、黙々と夕食を食べ続けるアラッドの表情を見れば、内心ワクワクしているのが丸分かりだった。
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