百三十六話 七対一でも

「今日のお茶会はどうだった?」


「楽しかったですよ。パーティーみたいに大勢の人が参加する場所にはあまり行きたくないですが、ああいった少人数での集まりであれば、また参加しても良いかと思いました」


他家の領主と話し合いをしていたフールと合流し、アラッドは高級宿屋へと戻る中、フールはアラッドからお茶会には肯定的な声を聞けて少し嬉しかった。


「そういえば、お茶会が始まって直ぐにイグリシアス家のご令嬢と模擬戦を行ったらしいね」


「……やはり不味かったですか?」


「いや、そんなことはないよ。そもそも模擬戦を行おうと言い始めたのはレイ嬢だったと聞いているよ。だからその頼みを受け入れたアラッドが他からどうこう言われることはないよ」


「そ、そうですか。それは良かったです」


全力は出さず、一応手加減して相手をしていたこともあり、レイはアラッドとの模擬戦で傷一つ負っていなかった。


「レイ嬢との模擬戦では傷を一つも負わせずに勝ったそうじゃないか」


「俺は日頃からモンスターと毎日戦っていますからね。勝つことは難しくありませんよ」


身体能力の高さにこそ驚かされたが、それでも直ぐにそれらしい原因は分かったため、対処することが出来た。


「ふふ、そうかもしれないね。でも、レイ嬢はその高い身体能力で同年代の令息との戦いで何度も勝利しているんだよ」


「そうらしいですね。婚約者は自分より強い方が良いらしいと……なんとも豪快な令嬢だと思いました」


言葉遣いも令嬢らしくなかったが、それでもアラッドからすれば好感が持てる相手ではあった。


(もしかして、今回お茶会したご令嬢の中ではレイ嬢が一番アラッドと気が合うかもしれないね)


事前にお茶会に参加する令嬢の情報は入手しており、元々レイが一番アラッドと相性が良いかもしれない。

アラッドを他家に継がせたり、騎士の道に進むよう誘導しようという気はもうないが、イグリシアス家の現当主の了承が降りれば二人揃って冒険者として活動するのもあり得る……かもしれないと思った。


(貴族のご令嬢が冒険者の道に進むという例は決してゼロではない……あぁ、でもイグリシアス侯爵は娘が騎士になることを望んでいるから……やっぱり難しいかな)


レイの親だけではなく、マリアの親も娘が戦いの道に進みたいというのであれば、騎士になって欲しいと願っている。


そして魔法タイプのエリザとヴェーラの親に関しては、もし魔法の腕を磨き続けたいのであれば将来は宮廷魔術師になってほしい……そう思っており、やはり親としては冒険者の道には進んで欲しくないと思っている。


「一緒に参加した令息たちとも仲良くなれそうかい?」


「そうですね。三人ともまともな令息だったので、彼らが学園に入学するまで仲良くやれるかと」


大体の子供たちは十二歳のになると学園に入学する。

なので、アラッドは同年代の子供たちが学園に入学するまでは偶にパーティーに参加しなければならないが、ベルたちが学園に入学してしまえば体裁的にわざわざ面倒なパーティーに参加しなくても良くなる。


(十二歳から十五歳になるまでの三年間は、みっちり自分の為に使える……それまで少しは我慢しないと)


十二歳からでも冒険者になることは可能だが、フールとアリサが心配性なので、十五歳という区切りが良い年齢になってから家を出て冒険者としての人生を歩む。


「それは良かったよ……ちょっと興味本位で聞きたいんだけど、もし今日参加した子供たち対アラッド一人で戦ったとしたら、どっちが勝つかな?」


「突然の質問ですね……糸を使わない勝負であれば、今のところはヴェーラ嬢とレイ嬢に気を付ければ身体能力のゴリ押しで勝つかと」


「糸を使うとどうなる?」


「その場から動かずに勝てるかと」


レイの身体能力は脅威ではあるが、まだアラッドの糸による拘束を無理矢理破るほどのパワーはない。


(同年代の子供と七対一の勝負で勝つと断言する、か…………アラッドなら、あれを達成出来るかもしれないね)


アラッドの力を持ってすれば、フールの頭に浮かんだ偉業を達成できる。

そんなことを考えてしまった本人はその考えを頭から掻き消すように、溜息を吐きながら首を振った。

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