百三十三話 どっちが恐ろしい?
アラッドが五歳の誕生日に授かったスキル、糸の存在について話してからもお茶会は続き、シュテイン辺境伯家のマリアはアラッドが錬金術を趣味としていることに興味を持った。
「アラッドさんは、錬金術でいったいどのような物をお造りになるのですか」
「趣味とはいっても、まだまだ半人前。基本的にはポーション造りに励んでいる。ただ、将来的にはアクセサリータイプのマジックアイテムを造りたいと思っているので、最近は鉱石の形を思った通りの形に変形させようと頑張っている」
ある程度の腕になってから本当に造ってみたい物は他にあるが、現時点では他人喋らない。
糸のスキルについてはマリアたちに話しても構わないと思ったが、将来的に造りたいと考えている物について話せばさすがに「こいつ頭おかしいのか?」と思われるかもしれない。
自身と家のことを考え、マリアの問いに関しては本音を隠した。
「ポーションに使う薬草は、自身で採ったのかしら」
「あぁ、そうだ。森の中でモンスターを狩る際に、道中で薬草を採集している。冒険者ギルドに頼めば自ら行わなくとも済むが、自分で行えることにわざわざ金を使う必要はないと思っている」
アラッドが言っていることはどこも間違っていない。
それはヴェーラたちも分かっている。
だが、それでも「それ、自分でやらなくてもよくね?」と思う部分を誰かに任せてしまうのが貴族あるある。
そして尋ねたヴェーラだけではなく、レイやガルシアもアラッドの「森の中でモンスターを狩る際に」という言葉に強く関心を持った。
「なぁ、アラッド。モンスターと戦う時はどういった感じで倒すんだ?」
「倒す方法は色々だ。糸で倒す時もあれば、剣で倒し……魔法で倒すこともある」
魔法で倒す。
この言葉を聞いたエリザとヴェーラ。
そしてルーフの三人はレイを剣と身体能力で圧倒したアラッドの魔法の腕は、いったいどれほどの腕前なのか気になった。
「あと、最近では剣以外の武器を使って倒すこともある」
「剣がメインの武器じゃないのか」
「いや、多分……腕前で言えば、剣が一番だろう。ただ、槍や手斧などの武器も趣味程度に嗜んでいる。技術はまだまだ剣に及ばないが、低ランクのモンスターが相手であれば問題無い」
実際にFランクやEランクのモンスターであれば、槍や手斧、短剣などで倒せる。
(趣味程度、か……本当に趣味程度なのか?)
控えめに言っているだけで、実は剣並みの腕前があるのでは?
ガルシアついそう思ってしまい、その考えは決して間違ってはいなかった。
ただ、技術といった点ではやはり授かったスキル持ちには負けてしまう。
「あ、あの……アラッドは、モンスターと戦う時に怖いと思ったことはないの?」
「…………」
ルーフからの質問に対し、アラッドは少々考え込んだ。
(ふむ……そうえいば、今のところ怖いと感じたことはないな。モンスターを解体する時に吐いてしまったが、既にもう慣れた……いや、オーラルドラゴンと遭遇した時は心の底からビビったか)
オーラルドラゴンという属性持ちのドラゴンとの遭遇にはアラッドも恐怖を感じたが、オーラルドラゴンを除けば出会ったモンスターは最高でもCランク。
アラッドの実力的に本気を出せば十分倒せる相手ということもあり、大して恐怖を感じることはない。
「あまりない、かもしれないな。ルーフは苦手意識があるのか?」
ここでアラッドはルーフの立場を考えて「怖いのか?」とは尋ねなかった。
「そ、そうだね」
アラッドはルーフのステータスを視ていないが、決して弱いとは思わない。
寧ろ魔法使いとしては優秀な部類だと感じている。
「そうか……ならばルーフ、一つ思い浮かべてみるんだ。これから遭遇するモンスターと、家に仕える騎士や魔法使いが本気で怒った状態……どちらが恐ろしいと感じる」
この言葉に対して、ルーフだけではなくヴェーラたちも頭の中でその状況を思い浮かべた。
「どうだ。怒った騎士や魔法使いたちの方が恐ろしいと感じないか」
「う、うん。確かにそうかもしれない」
比べる対象が対象なので全員苦笑いしてしまったが、ルーフたちはモンスターに対する恐怖心を和らげてくる考え方に強く感心した。
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