百二十五話 それよりも怖い

街での散策が終わり、夕食の時間。

フールは息子の表情が普段と違うことに気が付いた。


「アラッド、何か悩みごとでもあるのかい?」


「いや、別にそんなことはないですけど……強いて言えば、街を散策している最中にグスタフ公爵家のヴェーラ嬢と会い、少し話しました」


フールに何かを隠そうとしても無駄だと思い、今日起こったことを素直に話した。


「なるほど、そういうことか。ヴェーラ嬢とは初めて会ったと思うけど、どうだった」


「どうと言われても……そういえば、ヴェーラ嬢からあなたは魔法使いかと尋ねられました」


「ほぅ、それは面白いね」


聞きたかった答えではなかったが、それでも興味深い内容が出てきた。


「ヴェーラ嬢は、アラッドが魔法専門の戦闘スタイルだと思った、ということだね」


「そういうことです。魔法使いではなく、どちらかといえば剣士だと返しましたけど」


アラッドは個人的に自分は剣士タイプだと認識しているが、フールはヴェーラの気持ちや考えが分からなくもなかった。


(ヴェーラ嬢は魔力操作の才を授かり、魔力感知も優れている。そして当然、魔法を扱う腕も一級品と聞くが……もしかしたら、アラッドが自分と同類の人間かもしれないと感じたのか……その可能性はありそうだね)


フールも自分がそれなりに魔法を使える方だと認識しているが、アラッドには敵わないと思っている。


(現時点だけであれば、アラッドは同世代の中でも抜き出ているだろうね……ただ、将来的に魔法の腕に関してはヴェーラ嬢が追い抜いてしまうだろう)


グスタフ公爵家が魔法に優れた血筋だということもあり、いずれはヴェーラに魔法スキルの練度などに関しては抜かれる。

この認識はアラッドとフールも同じだった。


(まぁ……アラッドは才能だけでいえば、剣士や魔法使いタイプではなく暗殺者タイプだけどね)


戦闘者という観点から見れば、アラッドは現時点で三つの顔を持っている。


「ふふ、ヴェーラ嬢が勘違いしてしまうのも仕方ないね。それで、アラッドの目にはどう映ったかな」


「えっと…………口数が少なく大人しく、綺麗な方かと」


綺麗と言っても、一口に様々な綺麗がある。

その中でも、アラッドから見てヴェーラは人形のような美しさを持つ令嬢だった。


「ふむふむ、第一印象は良かったんだね」


「そう、ですね……悪くはなかったと思います」


決して嘘ではない。

少なくとも、面倒な人物とは感じなかった。


お互いの第一印象は悪くないという事実を知ったフールだが、二人がくっつく可能性はあまり高くないと予想している。


(初対面の流れ、雰囲気は悪くなかったようだけど……記憶が正しく、アラッドの言葉を聞く限りあまり話が盛り上がるタイプではない……アラッドはそれなりにお喋りが好きだし、ちょっと厳しいかな?)


フールの貴族的立場からすれば、アラッドが公爵家の令嬢であるヴェーラとくっつくのは嬉しい。

だが、今回のお茶会には他にも三人の令嬢が参加する。


(アラッドの好みとしては……やはりイグリシアス侯爵家のご令嬢が合っているかな)


明日のお茶会が始まってみないと分からないが、それでもフールの中ではイグリシアス侯爵家のご令嬢がアラッドと一番仲良くなる可能性があると予想。


「明日のお茶会にはヴェーラ嬢以外にも三人のご令嬢が参加する訳だけど……どうだい、緊張しているかな」


「そうですね……モンスターと戦うよりも緊張しているかと」


アラッドの言葉が耳に入った護衛の騎士たちは小さく笑ってしまった。

同じくフールもアラッドの答えを聞いて不意を突かれたが、それはそれでアラッドらしいと感じた。


「なるほど。あまりパーティーに参加しないアラッドにとっては、未知のモンスターと戦うといったところか」


「……そ、そうですね。まさにそのような状況かと」


本気で緊張している事もあり、アラッドはフールの言葉を一ミリも否定しなかった。

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