百十九話 金を取れる死合

「……凄いな」


あと半日もあればお茶会が開催されるグスタフ公爵が治める街まで辿り着くというところで、アラッドたちの前に二体のモンスターが現れた。


ただ、その二体のモンスターは決してアラッドたちに向かって襲い掛かる訳ではなく、二体同士が争い合っていた。

護衛の騎士たちから事情を聞いたアラッドは馬車から降り、その光景を観ていた。


(戦っているモンスターがモンスターだから、迫力が凄いな)


いきなりアラッドたちの前に現れた二体のモンスターはリザードとワイルドグリズリー。

四足歩行のドラゴンと大型のクマが周囲を気にすることなく全力で殺し合っている。


「俺達の方に全く気付きませんね」


「そうだね。もしかしたら……どちらかが仲間、もしくは伴侶を殺されたのかもしれないね」


「殺した側は逃げ切るのは不可能だと判断して、戦闘に応じた……そんなところですか?」


「もしかしたら、そうかもしれないって話だよ」


実際にフールとアラッドは何故リザードとワイルドグリズリーの二体が本気で争っているのか、理由は全く分からない。


しかし比較的大型モンスターである二体のガチバトルを見れるのは非常に楽しい。

攻撃がアラッドたちに飛んできたとしても、今揃っている面子を考えれば躱すか弾く。

余裕で対処することが可能。


(今この状況であいつらに攻撃をすれば、余裕で倒せそうだけど……やっぱり勿体ない)


アラッドは自身が戦うのは勿論好きだが、他者同士の戦いを観るのも楽しみの一つ。

目の前で繰り広げられる戦いを部外者である自分たちが終わらせるのは……非常に勿体ない。


それはアラッドだけの考えではなく、この場にいる全員が同じ事を考えていた。


(二体のランクは同じC。体型は違うけど、どちらが有利ってのは……なさそうだな)


仮に、ワイルドグリズリーが人と同じ様な考えを持ち、同じ様な動きをするのであれば話は変わってくるが、そのような希少な個体ではない。


ただただ己が勝つためだけの力のすべてを出し、目の前の敵を殺そうとする。

道中に現れる前にかなり戦っていたため、二体は既に多くの傷を負っていた。


しかしそれでも二体の攻防は衰えることなく、寧ろ激しさを増していく。

リザードのブレスに対してワイルドグリズリーは爪を全力で振り下ろし、爪斬を与える。

だが、ブレスは完全に消すことが出来ずに毛を焦がす。


重たい尾による一撃を腹に食らうが、耐え切った瞬間に尾を掴んで地面に叩きつける。

爪撃に対して爪撃で迎撃。


少しでも戦いに興味がある者であれば、この戦いを観る為に金を払っても構わないと思ってしまう。

実際、二体の戦いを観ているアラッドたちは金を払ってでも見る価値がある戦いだと感じていた。


「そろそろ、ですよね」


「あぁ、そうだね。そろそろ終わりそうだ」


観客達に好勝負だという感想を持たせた二体だが、着々と決着の時が近づいてくる。

そして最後の最後にリザードが放った渾身のブレスを突進で受け切り、ワイルドグリズリーの重厚な爪撃が頭に振り下ろされ……二体の戦いは幕を閉じた。


確実に相手を潰し、勝利を確信したワイルドグリズリーは勝利の雄叫びを力の限り叫んだ。

そして……何故か周囲から拍手の音が聞こえた。


「???」


アラッドたちは良いものを観せてもらったという感謝の意を込め、二体に拍手を送った。

だが、そんなアラッドたちの考えなどワイルドグリズリーが解るわけがない。

加えて拍手音が耳に入ったことで初めてアラッドたちの存在に気が付いたワイルドグリズリーの頭に浮かんだ思いは……続いて敵が現れた。

ただそれだけであった。


知識として、目の前の人間という生き物は自分たちを狩ろうとする存在。

そもそもワイルドグリズリーは拍手という行為を知らず、アラッドたちの眼や表情を見ても何を考えているのか分からない。


しかし基本的に自分の敵だという知識は頭に入っているので、直ぐに戦意を復活させてアラッドたちに襲い掛かった。


「その状態じゃあな」


ワイルドグリズリーは殺る気満々という状態だが、現在の体は万全という状態からほど遠い。

あまり集中力もなく、自分の首周りにいきなり何かが現れたという事実も察知出来ず、魔力を纏ったスレッドサークルによって首を斬られた。

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