九十八話 必ず愚か者は潰す
「国王陛下、そろそろその辺りで止めなければ公務に支障が出ます」
「むっ、もうそんな時間か?」
「えぇ、もうそんな時間です。お二人がチェスを始めてから約三時間程が経ちました」
「そうか……さすがリバーシの制作者が作った新たなゲームだ。思わず時間を忘れて楽しんでしまった」
国王とリグラットが三時間ほど戦い続けた結果、勝敗はトントン。
国王は戦術などに関して突出した頭を持っており、直ぐに慣れた手つきで駒を動かし始めた。
しかし、こういった戦略に関しては毎日頭を働かせているリグラットも負けてはいなかった。
「それにしても、これだけ面白く……そして奥が深いゲームであれば、リバーシと同じ流れになりそうだと思うのだが、リグラットはどう思う」
「同じ考えです、国王陛下。こちらのチェス、間違いなくリバーシと同じく一つの職になるかと」
現在、まだ高給取りではないがリバーシが一応職業になっていた。
アラッドからの考えを取り入れ、少しでも早く形にしようとリバーシ協会は日々動き続けている。
だが……今のところリバーシ協会の人間も、リバーシを生み出した者がパーシブル家の三男、アラッド・パーシブルとは誰も知らない。
「ふふ……本当に恐ろしいな。これほどのゲーム……娯楽を作ってしまうとは。是非とも頭の中を見てみたいものだ……リグラットもそう思わないか?」
「そ、そうですね。いったいどのような事を考えていれば、リバーシやチェス、積み木の様な物を考え付くのか大変気になります」
頭蓋骨を砕き、脳を見たところで何を考えてるのか分かる訳がない。
マジックアイテムに相手が何を考えているのか読む物もあるが、本当にその一瞬何を考えているのか。
それしか分からない。
そんなことは二人とも解っているが、リバーシを世に出してから約一年後にまた新しいボードゲームを作った。
明らかに常人とは異なる頭を持っている。そうとしか思えない。
だが、実際のところは他人の知識を借りているだけで、制作者であるアラッドはリバーシやチェスを制作することに関しては頑張っているが、特段新しいルールなどは考えていない。
「まぁ、偉大な製作者にそのような無礼はできないがな」
この国において、エレックドロア・アルバースよりも強い権力を持つ者は一人としていない。
そんな人物が無礼を働けないと言葉にするのはややおかしいが、リグラットも国王の気持ちは解る。
ただ……そんな偉大なる製作者に対して、エレックドロアは知らなかったとはいえ王族特有の威圧感で本人を試してしまった。
とはいえ、そんな些細なことを本人は気にしておらず、気にしてないからこそ国王だけの専用駒を作り、献上した。
「国王陛下、新しいゲーム……このチェスを作るにあたって、製作者様から一つ言葉を頂いております」
「聞かせてくれ」
「はっ! チェスを職の一つにし、大会を開催するのは勿論構わない。ただ、チェスだけではなくリバーシに関しても大会内で不正や裏でのやり取りは厳しく取り締まり、真っすぐ上を目指す者が損をしないでほしいと」
「なるほど……本当に人格者だな」
この伝え、特に契約などはしていない。
リグラット自身は本気でそういったことが起こらないよう、本業の傍ら力を入れるつもりだが……この話を聞いてエレックドロアはこう思った。
もし制作者からの……アラッドの願いを守らなければ、この先新しい何かが生み出されなくなるかもしれない。
この先も何か新しいゲームを作るのか、それともこれでネタ切れなのかは分からない。
しかし制作者に敬意を抱いているということもあり、エレックドロアは必ず製作者の期待を裏切らないように裏でやり取りしようと考えている愚か者を処分しようと決めた。
(さて、それはそれとしてこの俺だけに作ってくれた専用の駒の礼をなにかしたいな)
これから世に、製作者がこの駒たちと同じ物は一切作らないと宣言している。
その特別扱いをしてくれた礼に、何かを返したいと思うのは至極当然のことであった。
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