九十五話 良作……のはず
ポーンではなく、デッドソルジャー。
ナイトではなく、ナイトライダー。
ビジョップではなく、グラスホッパー。
ルークではなく、バッファロー。
クイーンではなく、クイーンスカーレット。
キングではなく、キング・オブ・キング。
「ネーミングセンスは置いといて、それらしい駒……だよな?」
凝った形にする為に駒は他のと比べて少し大きいが、サイズ的には問題無い。
既に色塗りも終わっている。
白か黒にするかで迷ったが……国王専用の駒ということで、黒と白を両方使った。
普通の駒を作るよりも疲れるので、塗り始める前に洋紙に絵を描いてどこをどう塗るかを記してから塗装を開始し、ミスすることなく作業を終えた。
(会心の出来だとは思うけど、ちょっと不安になってきたな)
リバーシにおいて、不正を働く者は必ず処罰してほしい。
その想いを通すために必要な一品。
そのルールはチェスにも適応してほしいと思っているので、生半可な作品では駄目。
途中までは力作を作れたと思っていたが、出来上がってから急に不安感を押し寄せてきた。
「…………まずは父さんに見てもらおう」
盤上に国王専用の駒を乗せ、駒を落とさないようにしながら速足で執務室へと向かう。
いきなり執務室にやって来たアラッドに驚くも、手に持っている物を見てなにやら大事な話があるのを理解した。
「えっと……まず、新しいボードゲームが完成しました」
「やっぱりそうだったか。いったいどんなゲームなんだい?」
「簡単にいえば、キングという名の駒を敵に取られたら負けです」
更に細かいルールを伝え、物覚えが速いフールは直ぐに動かし方を覚えた。
ただ、アラッドが伝えたいのは新しいボードゲームの制作を終えたということではなかった。
「父さん、この駒は国王様に渡す予定の駒です。自分としては良い出来だと思うんですが……父さんの目から見てどうですか?」
確実に自分より目が肥えている。
そんな人に良作と判断されれば、アラッドの不安感もなくなる。
フールはボード上に置かれている駒を手に取り、デッドソルジャーからキング・オブ・キングまでじっくりと見る。
駒を一つ一つじっくり見られている間、全く熱くないにもかかわらず汗が止まらなかった。
「うん、とても良い作品だと思うよ。ちなみに駒の名前はなんて言うんだい」
「ポーンの駒がデッドソルジャー、ナイトの駒がナイトライダー、ビジョップの駒がグラスホッパー、ルークの駒がバッファロー、クイーンの駒がクイーンスカーレット。キングの駒がキング・オブ・キングです」
「なるほど……良い名前だ」
嘘ではない。
お世辞でもない。
フールは心の底から国王専用の駒、そしてその名前を素晴らしいと思った。
(デッドソルジャー……これだけがちょっとあれかなって思ったけど死して尚、王の為に戦う兵士って考えれば悪くないよね)
少し懸念に感じたのはその部分のみ。
「それじゃあ、アラッド。さっそく一戦やってみようか」
「え? あっ、はい! 分かりました。普通の駒を持ってくるので少し待ってください」
ダッシュで自室に戻り、通常のボードと駒を持ってきた。
ちなみに国王専用の駒とボードはトレントの木を使って作られている。
素材も他と差別化を図るために、リグラットがリバーシ用に用意してくれた木とは別で、自身の金を使って取り寄せた。
「よし、それじゃあ先攻後攻を決めよう」
コイントスをして表か裏を当てる。
当てた方から先行スタート。
この世界ではジャンケンがないので、何かを決める際に簡易的な方法としてコイントスで決めることが多い。
ただ、この勝負……アラッドはあまりフールに勝てる気がしなかった。
(一応この世界では発案者になるけど、リバーシみたいに皆がある程度慣れるまで圧勝!! ってのは無理だよな)
前世でリバーシ……オ〇ロは何度もプレイしたことがあるが、チェスに関しては殆どない。
定石などは軽くネットで見たことがあるが、実戦で使った訳ではない。
多分負けるだろうな……そんなマイナス思考気味でポーンを動かした。
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