九十三話 次元が違うと感じる
オーアルドラゴンとの交渉が無事終了し、屋敷に戻ると直ぐに鉱山へ続く一本道の入り口を決める。
フールは屋敷に戻るまで、どこにするか既に考えており、アラッドとクロを直ぐにとある場所に連れていく。
「ここに立ってたら良いんですね」
「そうだよ。オーアルドラゴンも言ってたけど、地面に違和感を感じたら直ぐに移動するんだよ」
「分かりました」
場所は今は使われていない屋敷の地下室。
掃除だけはされているので、汚くはない。
(……暇だな)
ただ穴が開通するまで待っているのも暇なので、魔力の塊を生み出して遊び始めた。
一応魔力操作の訓練ではあるが、長い間続けてきたアラッドにとっては遊びに近い。
しかしクロは宙に浮かべる数が増えれば操作が乱れることもあり、まだまだ遊ぶという感覚には辿り着いていない。
(そういえばオーアルドラゴンとの交渉に成功したんだから、これから鉱石は取り放題……だよな? そうなればあれの製作が進められそうだな)
錬金術を習得してから、こういったマジックアイテムを造ってみたいという一つの目標があった。
前世の作品を今世で作り、大儲けしたので大金は持っているが、鉱石を買い占めるようなことはしてこなかった。
単純に思い描く作品を作るにはまだまだ技術が足りないという想いもあったが……まだ冒険者になるまで時間があるので、急ぐ必要はない。
そう思っていたが、一日の間に移動できる距離のところに鉱山があり、鉱石の採掘が可能。
(クロに乗って向かえば余裕で日帰りできるよな……いや、でもそうなると兵士やメイジたちを完全に置いていくことになるよな……そりゃやっぱり駄目だよな)
クロはアラッドを背に乗せて走っても余裕で運び、鉱山内で採掘する時間を確保できる。
だが、人間とモンスターではスタミナに大きな差がある。
身体強化などを使えば速さで負けることはないが、徐々に魔力は消費する。
メイジはそもそも兵士たちと比べてスタミナが低く、身体強化の練度も低い。
なので、アラッドが日帰りで採掘をするならクロと二人で挑む形になる。
(初めてモンスターと戦い始めた五歳の時と比べれば確かに強くなったけど、まだクロと二人で森の中や鉱山を探索するのは危ないというか……さすがに父さんと母さんも止めるよな)
Cランクのモンスターに勝利した。
手加減あり、お互いに全力ではないという制限はあったが、現役の騎士に勝った。
相手が女性騎士でなければその条件でも勝てなかった?
アラッドが子供だから油断するという可能性を含めても、アラッドの糸は完璧な初見殺し。
よっぽど神経を張り巡らせていなければ、相手が男の騎士であっても首に剣先を突き付けて勝利という形は変わらない。
アラッドは正真正銘の強者と言えるだろう。
ただ、フールが治める領地の周辺にはCランクのモンスターだけではなく、Bランクのモンスターも出現する。
冒険者の多くはCランクから上のモンスターは、強さの次元が違うと感じる者が多い。
それは何故か?
純粋に身体能力が高い。
魔力の量が多く、扱う魔法のレベルが高い。
状態異常の攻撃を使うモンスターも増える。
今のところそういった次元が違う強さを持つモンスターと遭遇したことが一度もない。
(もしかしてBランクのモンスターを倒せば認めてくれるか? ……あまり良い方法じゃないな。Cランクのモンスターに勝ててちょっと調子に乗ってたな)
メタルリザードやハードボアといったCランクモンスターと対峙し、余裕をもって倒してきた。
クロも順調にレベルを上げており、アラッドの糸があればCランクモンスターの群れと戦っても勝機は十分にある。
しかしBランクモンスターともなれば、アラッドの糸を容易に引き千切る個体がわんさかいる。
脚を引っかけて転ばすだけが技ではないが、その他の技もBランクモンスターにはまだ通じない個体が多い。
「ん? そろそろ……だよな? クロ、離れよう」
「ワゥ」
宙に浮かべる魔力の塊を変形させたり消滅させることなくその場から離れると、十秒後に床が崩れた。
そして数秒後には鉄製のトンネルが見えたので、直ぐに執務室へ向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます