八十九話 倒したドラゴンの名は
「おらッ!!!!!」
現在ロックゴーレムと戦闘中のアラッドはフールに言われた通り、鋼鉄の剛剣ではなく素手を使って戦っている。
ゴーレムよりワンランク上のCランクモンスターであるロックゴーレムだが、ゴーレムと同じく基本的なステータスは攻撃力と防御力が高く、素早さが低い。
ワンランク上がったCランクモンスターとはいえ、ロックゴーレムの素早さでは強化系スキルを使ったアラッドとクロの速さには追いつけない。
動きは鈍いが堅い。
こういった敵との戦いも悪くない。
だが、ここでアラッドも騎士たちと同じ疑問を抱いた。
(なんか、モンスターと遭遇する回数がちょっと多いような気がするんだが……気のせいか?)
森の中でモンスターを探索している時よりも、遭遇する回数が多い。
偶々という可能性もあるが、普段と比べて多いのは確かだった。
Dランクのアイアンアントやコボルトの上位種。
Eランクのバインドスネークやサックバットにコボルトの通常種。
明らかに遭遇したモンスターの数は多い……が、全てきっちり倒している。
(騎士や父さんを見てビビッて逃げるような個体がいても良いと思うんだが……それにこっちはブラックウルフのクロがいるんだ。モフモフしてて可愛いところもあるが、Cランクのモンスターだ。Eランクのコボルトとかバインドスネークは逃げたりするのが普通だと思うんだけどな)
何事にも例外は存在する。
単純に襲ってきたモンスターたちが力の差を見抜けない間抜けだった場合もある。
遭遇してきたモンスターが全て襲ってくるというのはアラッドの経験上、決して珍しくない。
しかし襲ってきた数と好戦的な様子を見て、やはり疑問を抱かざるを得なかった。
(偶々か……もしくはモンスターを操ってる特別な個体がいるとか? どっちの可能性も否定出来ないけど……まっ、もう考えても仕方ないよな)
ついにアラッドたちはオーアルドラゴンの前に到着した。
(ッ!!!!! な、なんて迫力なんだ!!?? このドラゴンの威圧感に比べれば、俺が今まで戦ってきたモンスターたちは全て三流四流がいいところだ……ただ座っているだけで人にここまで迫力を感じさせるのか……生まれながらの強者ってやつなのか?)
オーアルドラゴンは特に威圧感を出したり、殺気や敵意を放っているつもりはない。
だが、生まれ持ったオーラや外見による迫力がアラッドたちに襲い掛かる。
しかしこの中で一人、フールだけが表情を崩さずに立っていた。
「……ふむ、我の前に立つ資格はあるようだな」
「ッ!!!」
目の前のドラゴンが人の言葉を喋った。
人語や人化のスキルを習得しているという話は事前に聞いていた。
だが、実際にモンスターの言葉を話す個体とは初めて遭遇した。
「初めまして、オーアルドラゴン。私はこの辺り一帯を治める領主、フール・パーシブルと申します」
完全に会話が出来る個体だと分かり、フールは失礼がないようにこちらから自己紹介を行う。
「ほぅ……人族にしてはまともな態度だな。しかしフール・パーシブル……どこかで聞いた名だな。しばし待て」
フール・パーシブル。
この名をオーアルドラゴンはどこかで聞いたことがある。
一分ほどじっくり思い出すことに集中し、やっとその名をどこで聞いたのかを思い出す。
「ふむ、思い出した。お前は確か少し前に暴風竜、ボレアスをソロで倒した人間か」
「ッ!!!! ドラゴンに名を知られているとは、光栄です」
暴風竜ボレアス。
Bランクの風竜の上位種にあたる風属性のドラゴン。
フールが副騎士団長時代、騎士団に討伐命令が下されたが最終的にはフール一人で倒すという状況になり、一躍フールの名を広めることになった一件。
この一頭と一人の戦いを離れた場所から観ていた一体のドラゴンがいた。
「轟雷竜、ボルディーアスがお主らの戦いを観ておってな。その戦いぶりを聞かされた。あやつが誰かを褒めるのは非常に珍しい……そして、実際に目にすると解る。人間の中でもずば抜けて強いな」
「まだまだ若輩の身です」
「謙遜する必要はない。あやつは戦うことが至高と考えているバトル馬鹿だが、実力は確かなものだった。それをたかだが二十数年しか生きていない者が倒すのは快挙と言えるだろう……お主の子供であろうそやつがその歳で強いのも頷ける」
オーアルドラゴンの意識がフールからアラッドに変更され、心臓を掴まれた様な感覚に襲われた。
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