八十六話 今になって不安が襲い掛かる

「さて、準備は良いかい」


「大丈夫です。ただ、その……父さんは付いて来なくても良いんじゃないですか?」


復活した鉱山内に一般的に見かけないモンスターを発見。

そのモンスターを鑑定した結果、間違いなくそのモンスターが住み着いたことで鉱山が復活した騎士たちは断言した。


報告を聞いたフールも同意見であり、アラッドが交渉の切り札の準備を終えた翌日、ついにそのモンスターが住み着いている場所に出発。


「何を言ってるんだい。息子であるアラッドが危ない場所に向かうんだ。父親である僕が一緒に行かない訳がないだろ」


なんてことを言いながらも、本当に危険性があるのでアリサは屋敷で留守番となった。


「そうですけど……父さんはパーシブル侯爵家の当主ですよ。ギーラス兄さんはまだ学生ですし、父さんの代わりはいないんですよ」


「その言葉、そっくりそのまま返すよ。アラッドの代わりだっていないんだ。だから……自分の命を大事にするんだよ」


騎士たちがとある場所で確認したモンスターはオーアルドラゴン。

Aランクの属性持ちのドラゴン。


土竜の一種だが、かなり個体数が少ない。

普通の土竜にはない特性……生息する周囲の土地に影響を与える。


ドラゴンの最下種であるリザードやワイバーンですら、本気でキレると恐ろしい。

ただ、鑑定を使った結果、オーアルドラゴンが人語と人化のスキルを習得していた。


これを知ったフールはこちらと意思疎通が取れる可能性が高いと判断。

アラッドが提案した案を実行すると決めた。


「ふんっ!!」


速さ重視で鉱山に向かう。

その途中では当然、モンスターと遭遇する。


現在アラッドたちに襲い掛かって来たモンスターはダッシュボア。

Dランクのモンスターであり、突進攻撃が得意。


下手に攻撃を受ければ、タンクでも吹き飛ばされてしまう。

しかし猪突猛進なイノシシなど、アラッドからすれば最も倒しやすいモンスター。


足を糸で引っかけ、顔面から地面にダイブしたところを狙って頭蓋骨を殴り割る。

それなりに堅い皮膚を持っているが、先日戦ったハードボアを比べれば脆い。


身体強化と腕力強化を同時使用した拳には耐え切れず、骨が脳に突き刺さって息絶えた。


「流石だね。もうDランクのモンスターじゃ相手になってない」


「ボア系のモンスターは突進が最大の武器ですからね。倒すべき相手意外に意識を向けてないので、動きを妨害するのが簡単なんですよ」


最近はそれなりのレベルまで上がって来たので素の力に対して自信が付いてきた。

しかし複数のDランクモンスターに囲まれれば、集中して倒さないといけない緊張感がある。


「だとしても、ダッシュボアをこうもあっさりと倒すのは凄い」


「ありがとうございます。それで……こいつはどうしますか?」


「ダッシュボアの肉は美味しいし、今日の夕食に使おう」


ササっと解体を行い、直ぐに鉱山へ向けて出発。

街からそれなりに離れている場所にあるので、常に走りながら目的地に向かう。


「……なんか、今になって自分が考えた作戦が上手くいくのか不安になってきました」


「失敗してもアラッドの責任にはならないから安心してくれ。それに、僕はアラッドが提案してくれた案が一番オーアルドラゴンと良い関係を築けそうだと思ってるよ」


今回の作戦を聞いている騎士たちもフールと同じ気持ちであり、何度も頷く。

アラッドが提案した案……それは美味い料理を提供すること。


現在、パーシブル家の料理は非常に潤っている。

リバーシで大量に儲けた金を、アラッドは調味料や別の大陸に存在する米や醤油などを大量に取り寄せる為に使っていた。


アラッドが料理長にレシピを提案し、見事に再現。

こうしてパーシブル家でのアラッドの株は増々上がった。


アラッドが周囲の人間からチヤホヤされれば当然、ドラングがイラつき始める。

しかし料理長が再現した料理の味に心を奪われ、悔しそうな顔をしながらも文句は言わなかった。


「良いペースだね。もう入り口まで辿り着いた」


数回ほど休憩を挟み、アラッドの七歳児からは考えられないスタミナのお陰で日が暮れる前に入り口に到着した。

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