五十話 もう少し落ち着いてから
「お久しぶりです、アラッド様」
「ど、どうも。お久しぶりです。リグラットさん」
ある日、一通の手紙がパーシブル家に届いた。
差し出し人はリグラット。
パーシブル家と良好な関係を気付いている商会のトップ。
そのリグラットが是非アラッドと話したいと書かれた手紙を送って来た。
話すこと自体は特に問題無いので、アラッドはその願いを受けた。
「えっと……本日のご用はいったいどのようなもので?」
話がしたいと手紙には書かれていたが、肝心の内容が書かれていなかった。
ただ、本題に入る前にリグラットは秘書に合図を送り、一つケースをテーブルの上に置いた。
「アラッド様、これは手土産です。どうぞ」
「あ、どうもありがとうございます」
ケースを開けると、中には十個の魔石が入っていた。
「こちらはCランクモンスター魔石です。錬金術を習われてるようなので、何かの材料になればと思いまして。もし現段階で使わないのであれば、そちらの従魔に渡しても良いかと」
「そ、そうですね……有難く使わせてもらいます」
ひとまずケースを閉じ、アラッドとリグラットの会話にあまり興味がないクロの隣に置く。
「それでは、本題に入らせていただきます」
「は、はい」
貴族や豪商から面倒な依頼が来たのかもしれない。
そう思うと胃が痛くなってくる。
「その、娯楽に関してアイデアがあれば是非、うちの商会を通して販売したいと思っています」
「……えっと、新商品に案があれば教えてほしい、ということですか?」
「その通りです!!」
元々こういった商品を売ろうと思った者はリグラットを通して売ろうと思っていたので、特に悩む必要はない。
「分かりました」
速攻で返事を返したものの、まだリバーシを発売してから一年も経っていないので、新しいボードゲームを売るつもりはない。
(リバーシを売ってからそこそこ経つけど、まだ俺が作ったリバーシを売って欲しいって人が多いからな。せめてもう少し落ち着いてからボードゲームの類は売りたい)
大金が懐に入ってくるので嬉しいことは嬉しい。
だが、次に何かを作ればまたアラッド本人が作った物が欲しいという直接依頼が殺到するのは眼に見えている。
あまりそういう事態が起こらないような品はないか……二十秒ほど考えると、頭に一つアイデアが浮かんだ。
ただその品は一部の人限定が遊べる内容の者だった。
「使う人の年齢は凄く狭いですが、一応売れると思うアイデアはあります」
「ぜ、是非聞かせてもらってもよろしいでしょうか!!!」
「えぇ、勿論です。実際に作って売るかどうかはリグラットさんが決めてください」
アラッドの頭に浮かんだ物は積み木だった。
フールの第一夫人であるエリアが二年前に生んだ双子、シルフィーとアッシュ。
この二人が遊ぶ道具として、積み木が適しているかもしれないと思った。
(さすがに二歳になればもう積み木では遊ばないか? ……でも、とりあえず売れるはず)
子供の頃から想像力を働かすにはもってこいの遊び道具。
これにリグラットは食いつき、詳しい説明を求める。
アラッドは注意事項を説明しながら全てを伝えた。
「なるほど……素晴らしい品ですね。さすがアラッド様です」
「い、いえ。なんとなく頭に浮かんだだけなんで」
本当に大した道具ではない。
気を様々な形に切り分け、やすりで綺麗にして赤ちゃんや子供が口に入れないサイズにする。
ただそれだけの内容。
寧ろ、何故今まで誰も作らなかったのか疑問すら感じる内容の薄い一品。
(金儲けできるから別に良いんだけどさ)
しかし家庭に二人目の赤ちゃんが生まれても、一人目が使っていた積み木を使わせればいいので、リバーシの様にバカみたいに売れることはない。
だが、そこはしっかりと考えていた。
積み木が行き着く先……それはレ〇。
木で作るにはかなりの手間が必要になるだろうが、絶対に流行るという予感があった。
「それでは、先に積み木の方を制作していこうと思います」
「よろしくお願いします。ただその……積み木に関しては俺自身が作ろうと考えてないんで、直接依頼はお断りしておいてください」
「かしこまりました」
積み木もリバーシと同じくパーシブル家に二割、アラッドの一割の権利という契約を結び、これでまた一つアラッドの収入源が増えてしまった。
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