四十六話 タダで教えたのに
「アラッド、お帰り」
「ただいま、父さん。こいつはクロって名前のブラックウルフ。ちゃんと言うことを聞きます」
「……うん、そうだね。初対面の私に対して襲い掛かって来ないところを見るに、ちゃんとアラッドの言う事を聞く様だ」
フールが敵意を発していないこともあり、クロはフールがどんな人物なのか観察していた。
「クロ、と呼ばせてもらうよ。アラッドのことをよろしく頼むよ」
目線を同じ高さに合わせ、フールは息子をよろしく頼むと伝えた。
本気でアラッドのことを想っている。
それを何となくではあるが察し、大きな声で任せろと返した。
「それでは、クロの分も夕食を用意しないとね」
「あっ、それなら俺が直接料理長に頼んでくるよ」
アラッドはクロに生活魔法、クリーンを使用して一先ず綺麗にしてから屋敷に入った。
クロと一緒に屋敷に入ると使用人達は当然、屋敷にブラックウルフが入って来たことに驚く。
中には小さく悲鳴を上げる者をいた。
だが、フールが外に出るまで使用人たちにアラッドが従魔としてブラックウルフを連れて来ると歩きながら伝えていたので、一応……話だけは聞いていたので直ぐに落ち着いた。
平常心は取り戻したが、その光景に直ぐ慣れるわけではない。
しかしアラッドは周りの視線を気にせずに料理人たちが真剣に料理を行っている厨房にやって来た。
「クロ、ちょっと待っててくれ」
言われた通りにクロはお座りの態勢で扉の前でピタッと止まった。
「失礼しま~す。オルバさん、ちょっと良いですか」
「この声は……アラッド様か飯はもう直ぐ出来上がるからちょっと待っててくれ」
「えっと、他に伝えたいことがあるんですよ」
「ん? 分かった」
オルバは手が空いている者に仕事を引き継がせ、アラッドの元に向かう。
「どうしたんだ? もしかしてこの前教えてくれたハンバーグみたいな美味い料理を思い付いたのか?」
「いや、そうじゃなくて……俺、今日森の中でブラックウルフの子供をテイムしたんですよ」
「…………マジですかい」
「マジです。直ぐそこにいます」
厨房を出ると、本当にアラッドの言葉通り、そこには大人しく待っているブラックウルフの子供がいた。
「おぉ~~~……アラッド様は本当に色々とぶっ飛んでるな。あっ、もしかしってこいつの分の飯を用意してくれってことか」
「そういうことです。クロの夕食はなるべく俺が狩って来ますから、それを軽く調理してほしいんですよ」
「分かった。それぐらいお安い御用だ」
「ありがとうございます。それじゃ、ボアの肉を出しますね」
「おう、こっちに出してくれ」
一頭分、丸々出して全てクロに与えることはなく、様子を見ながら量を調節することになった。
そして夕食を食べ終えた後、厨房の前で待っているクロのところに向かおうとしたところで、久しぶりにドラングから声を掛けられた。
「おい」
「ん? 珍しいな、お前が俺に声を掛けるなんて」
二度目の模擬戦が行われて以降、二人は一切喋っていなかった。
どちらかが連絡を伝えることもないので、本当にここ半年ほど全く会話をしていなかった。
「……ブラックウルフを従魔にしたそうだな」
「あぁ、そうだ。まだ子供だけどな」
「……どうやって従魔にしたんだ」
ブラックウルフを懸けて俺と勝負しろ!!! と、言いたいところではあったがドラングもブラックウルフのランクは知っている。
まだ子供とはいえ、Cランクのモンスターだ。
鍛錬を真面目に続けているとはいえ、自分が勝てるモンスターではないことぐらい解っている。
そんなモンスターをアラッドは従魔にした。
その事実がまだ自分とアラッドの間には大きな差があると改めて認識させられる。
「知ってどうするんだよ」
「そんなのお前にはどうでも良いだろ。俺は教えろって言ってるんだ!!!」
アラッドに対しては相変わらずの傲慢スタイル。
だが、従魔を得たという点にまた先を行かれたという思いを感じ、ドラングの中で焦りが大きくなっていた。
「……コボルトの上位種に襲われているところを助けたんだよ。そして俺の仲間にならないかって言った。そしたら運良く従魔になってくれたんだよ」
「…………そうか」
聞きたいことを聞き終えるとドラングは直ぐにその場から離れた。
「せっかくタダで教えたんだから礼ぐらい言ってくれても良いと思うんだけど……まいっか」
早くクロに会うために速足で厨房に向かい、突っ込んでくるクロを抱きしめてとりあえずモフモフした。
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