三十話 それだけで構わない
「商品として売る、か……そうだね。確かにこのゲーム……リバーシは売れる。ナダックはどう思う?」
「自分もこれは売れると思います。アラッド様、これは木と塗料だけで作ったんですよね」
「はい。木と塗料だけで作りました。貴族や豪商から要望があれば鉱石や宝石を使った特注品を作ればいい……けど、一般人が使うぶんには木と塗料だけで問題無いかと」
「……フール様、これは絶対に商品として売るべきです!! 現時点で財政難という訳ではありませんが、アラッド様はお作りになったリバーシを懇意にしている商会を通して売れば懐か暖かくなるのは確実かと」
ナダックはざっと……本当にざっとリバーシを商品として売り、パーシブル家に入ってくる利益を考えると頭が沸騰しそうになった。
「そうだね……是非ともそうしよう。だが、商品として売り出す前に決めないといけないことがある。これを作ったのはアラッドだ。売ることによって発生する金額のうち、何割を権利として受け取るのか」
この世界にも著作権に近いものが存在する。
故に、もしかしたらフールに恩を返せるかもしれないと思って作ったリバーシの売り上げによっては、子供で億万長者になることも不可能ではない。
「えっと……その権利というのは一般的に何割ぐらいなんですか?」
「こういった物に関しては大体四割から五割が相場だね」
リバーシを売れば大金が入ってくるのは容易に想像できる。
だが、フールはパーシブル家がそれを受け取っても良いのか迷っていた。
商品として売り出すまでは大人であるフールたちの力が必要だ。
ただ……フールはこの一時間近くでリバーシにどっぷりとハマった。
こんな面白いゲームと自分たちが商品にするまでの労力……それが釣り合っているとは思えなかった。
しかしアラッドも同じようなことを考えていた。
今回リバーシを作ったのはフールに対する恩を返すため。
だが、今後のことを考えると多少なりともお金は欲しい。
「それでは、三割を権利として主張します。そのうち、二割はパーシブル家に入れてください」
それがアラッドの答えだった。
「あ、アラッド様。もう少し自分の権利を主張しても良いのですよ。このリバーシというのは素晴らしい娯楽です」
「その通りだよ、アラッド。これは絶対に売れる確証できる。権利として五割を主張しても通るよ」
二人の言う通りではあるのだが、アラッドの考えは変わらなかった。
「いえ、それで十分ですよ」
「……そうか。アラッドがそういうなら、言う通りにしよう。しかし、パーシブル家の取り分が二割でいいのかい?」
「えぇ、勿論です。元々パーシブル家に利益をもたらすかと思って作った娯楽なので」
「君は、本当に大人びてるね……有難う。その気持ち、大事にさせてもらうよ。このリバーシは少し預からせてもらっても良いかい?」
「はい、大丈夫です」
伝えたい事を伝え、上手くことが進んだアラッドは上機嫌な様子で執務室から出た。
「……まだ時間はあるし、いくつか作るか」
まだまだ木も塗料もあるので、庭に戻ったアラッドは五台ほどリバーシを作ってから訓練に戻った。
そして夕食を食べ終えたあと、第一夫人であるエリア。第二夫人であるリーナ。血の繋がった母であるアリサに一台ずつリバーシを渡した。
既にこれがどのような娯楽なのか聞いているので、三人は早速側近のメイドたちを相手にゲームを始めた。
「グラストさん、これ」
「……アラッド様。これはいったいどのような物なのでしょうか」
騎士や兵士たち用に一台渡すが、グラストはまだリバーシがどのような娯楽なのか聞いていなかった。
なのでサラッと遊び方を教え、実際に一ゲーム行う。
結果、当然アラッドが勝利した。
「こんな感じで、最後の色が多い方が勝ちって感じ」
「これは……実に面白い娯楽ですね」
「そう言ってもらえると嬉しいです。父さんにも渡しているので、後日商品として売り出されます。ただ、現時点はこの家の人しか持っていません」
「な、なるほど。そのような物を……有難く頂戴します」
「順番を守って遊んでくださいね」
グラストと別れたアラッドは最後にギーラスの部屋へと向かった。
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