二十八話 ちょっと賢かった
「アラッド様、あれはホブゴブリンです」
「そうみたいだな」
フールから借りているモノクルで調べた結果、Eランクのホブゴブリンであることが分かった。
(体は少しゴブリンより大きい……それに線が若干太いな。レベルはあんまりそこら辺のゴブリンと変わらないのに、身体強化のスキルを持ってる……やっぱりそれなりに違うのか?)
ホブゴブリンとは初めて戦うため、自分から仕掛けずに相手の出方を窺う。
「……ギギャッ!!!!」
アラッドたちに現れた二体のホブゴブリンのうち、一体がアラッドに襲い掛かるが……ロックオンされた本人の表情はあまり変わらなかった。
(確かに動きはゴブリンと比べて速い……でも、やっぱり母さんやグラストさんと比べればまだまだって感じだな)
ホブゴブリンの進行方向に粘着性の糸を複数展開。
「ギャギャッ!?」
アラッドをぶん殴ろうとしていたホブゴブリンは見えない壁に阻まれた。
ただ、本当に見えない訳ではなく糸なので細く見えにくいのだ。
そしてただ阻まれただけではなく、その場から動こうとしても動けなかった。
「スレッドサークル」
そんな隙だらけのホブゴブリンをサクッと糸の輪で瞬殺。
仲間の首が綺麗に切れ、落ちる瞬間を見たもう一体のホブゴブリンの背に物凄い勢いで悪感が走り、すぐさま身体強化を使って逃げ出した。
(仲間を置いて逃げるか……というか、そもそもこいつが勝てなかったら即座に逃げようと考えっていたのか? だとしたらそれなりに頭が良いホブゴブリンなのかもな)
野性で生き残るために知識を得たホブゴブリン。
しかし相手が背を向けているのであれば、攻撃し放題。
「ストリングショット」
細い糸を重ね合わせた弾丸……糸弾。
ストリングショットによって生み出される糸弾はスレッドサークルの糸と同じく、平凡な糸とはまるで質が違う。
放たれた糸弾は直ぐにホブゴブリンに追いつき、簡単に頭を貫いた。
「よし、死んだな」
「お見事です。いつ見てもアラッド様の糸は凄いですね」
「俺もこういったことが出来るのは少し意外だったよ」
糸で相手の首を切断するという攻撃手段は思い付いていたが、糸の弾丸でモンスターを倒せるとは思っていなかった。
(この糸質なら、モンスターの眼球に攻撃するぐらいならたった一本でも問題無いよな)
魔力操作によって基本的に十本の糸を合体させて放つ糸弾だが、アラッドの魔力操作によってその数を変更できる。
使う糸の数を減らせば、当然消費魔力も下がる。
「さて、さっさと魔石を剥ぎ取ろう。こいつら肉が不味いからそれぐらいしか剥ぎ取る者がないんだよな」
「……剥ぎ取る姿も立派になりましたね」
「そりゃもう何十回って剥ぎ取り作業をしてきたからな。さすがにもう慣れた」
ノーラスの解体ショーを見学した時に一度吐いてしまったが、それ以降は一度も吐いていない。
だが、モンスターの体内と匂いに慣れるまで気持ち悪さは中々消えなかった。
しかし既にアラッドは百回以上の剥ぎ取り作業をこなしている。
解体のスキルも習得し、素人に毛が生えたレベルは既に卒業していた。
「……ふ~~~ん。ゴブリンと比べて少しだけ魔石は大きいみたいだな」
「ホブゴブリンは上位種にならなければゴブリンとそこまで差はないらしいですよ」
「上位種っていうと……どのレベルだ?」
「ジェネラルやキング、ロードとかですね。その辺りになれば明確な差が現れるらしいですよ。実際に戦ったことはないので断言出来ませんが」
(ジェネラルやキング……今の俺だと絶対に倒せない相手だな)
とんでもない勢いで成長しているアラッドであっても、流石にCランクやBランクのモンスターに勝つのはほぼ無理に等しい。
「どれぐらい違うのか気になるけど、それを知れるのはまだまだ先の話だろうな」
「アラッド様が目指す道は冒険者ですからね。冒険者として活動していればそういった大物と遭遇する機会もあるでしょう。ただ、ランクが上がれば一声で同族を呼ぶ個体が多いので、仮に将来そういったモンスターと遭遇したら気を付けてくださいね」
「あぁ、気を付けてきっちり倒すよ」
兵士の言葉を聞く限り、強いだけでなく面倒な能力を持っていることが窺える。
だが、そんな強大なモンスターは……既に狩人となりつつあるアラッドにとっては美味しい経験値と素材、魔石を持った存在と認識されていた。
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