二十話 重要なことを忘れてる弟
今日も今日とて絶好調なアラッド。
遭遇したモンスターは全て倒し、薬草とマナ草が見つかれば採集を行い、日が暮れる前に戻って素材を売って懐を温める。
そして後日になれば訓練を行いながらも途中でポーションを一つ一つ真剣に造り、少しずつ腕を上げていく。
ちなみにアラッドが造ったポーションとマナポーションはパーシブル家の兵士や騎士、メイジたちに支給される。
この件でまたまた兵士たちからの株が上昇する。
だが……テンションが上がった兵士たちの口が少々緩くなり、アラッドが二日に一度モンスターと戦っているという情報がドラングにバレてしまった。
「おい、アラッド!!!! もう一度俺と戦えっ!!!!!」
「また急にだな……この前模擬戦を行ったばかりだと思うんだが」
約一か月ほど前にアラッドがドラングを瞬殺し、模擬戦は終了した。
それはドラングも覚えているが、一歩も引くつもりはない。
「ふん!! 俺はこの一か月、死ぬ気で鍛えたんだ。この前の様にいくと思うなよ!!!!」
「そうか……分かった。受けてやるよ」
本日は既に昼過ぎ。
午前中に日課のポーション造りは終っているので、シャドーや素振り時間を削ってドラングとの模擬戦を行う時間に使っても構わない。
「来い!! 強くなった俺の力、見せてやる」
庭でやれば良いのにと思いながらも、ドラングは強くなった自分を多くの者に証明したいので、わざわざ兵士や騎士たちが訓練を行っている訓練場に向かった。
(模擬戦ならここでやれば良いのに……何故わざわざ人がいる場所でやろうとするんだ? ちょっと調子乗ってるかもしれないが、人前で戦えば恥を晒すだけだと思うんだが)
ドラングはアラッドに負けた日から、更に訓練に力を入れるようになった。
そのせいで授業中にうっつらうっつらしてしまうことがあるが、それでも毎日訓練を行っていた。
兵士たちの息子にあたる同年代、もしくは歳が少し上の者たちとも模擬戦を行い、結果を出している。
あの模擬戦から一か月しか経っていないが、確かにドラングは成長していた。
それは兵士や騎士たちも認めている。
このまま努力を続ければ騎士の称号を得るのも遠くない。
だが、ドラングは一つ……決定的な問題を忘れていた。
人はモンスターを倒し続ければ、いずれレベルが上がるのだ。
そしてレベルが上がれば身体能力が上がり、魔力の総量が増える。
アラッドはレベルが上がりにくい特異体質だが、その分レベルが上がった時の幅が他人と比べて大きい。
勿論、ドラングはそんなこと一切知らない。
正直なところ、先日の模擬戦口に出さなかったが油断していた部分は真面目にあった。
今回は最初から本気で戦う……なので、瞬殺されることはないと思っていた。
二人が訓練場に入ると兵士たちはざわつき始め、多くの者たちがこれから何が起こるのかを察した。
「グラスト、前の様に審判を頼む」
「……分かりました。私が続行不可能だと思ったら、直ぐに止めます」
二人の模擬戦を止める権限など、グラストにはない。
それは訓練場で兵士たち相手に訓練を行っていたギーラスたちも同じだった。
四人ともアラッドの事情に関しては知っている。
グラストは部下たちからどのような戦いが行われたのかも聞いてるので、二人の差が明確に解かる。
だが、ここでドラングに今挑むのは早いと伝え、止めようとすればそれはお前はアラッドより下だ。
模擬戦を行っても負けるだけだから止めろ、っと言っているのと変わらない。
二人が模擬戦を始めると分かると、兵士たちは自然と手を止める。
訓練場にはアラッドの母であるアリサがいたが、息子が勝った瞬間にダッシュして褒め称えそうなので、その時の空気を考えてスキル、忍び足と気配隠蔽を使ってこっそり退場した。
「……おいおい、ドラング。目がちょっと怖いぞ。これは模擬戦だろ」
「黙れ、絶対にぶっ飛ばしてやる」
(木剣を使うんだからそれはぶった斬るだと思うんだが……そういうツッコミはしないほうが良さそうだな)
今回は真面目に戦おうと思い、アラッドは木剣を中段で構えた。
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