三話 名前で騙されてはならない

五歳の誕生日に、アラッドは糸というスキルを授かった。


このスキル、今まで所有者が確認されたことがないので、一応エクストラスキルという扱いになる。

だが、明らかに戦闘用のスキルではない。


家の殆どの者たちがそう思った。


歳は殆ど変わらない四男のドランクはここぞとばかりアラッドを馬鹿にした。

アラッドは転生者なので、幼い頃から幼児とは思えない行動力で周囲を驚かし、努力を重ねていた。


なのでアラッドの父親であるフールやパーシブル家に仕える者たちは自分たちが驚かされるスキルを得るかもしれない。

そう思っていた。


アラッドの誕生日が過ぎ、ドランクの誕生日を迎えると……四男のドランクは今まで剣の訓練を行っていても習得出来なかった、剣技を得た。

これにより、ドランクは他人より優れた剣技の才を持つと証明された。


その日、更にドランクはアラッドに対して傲慢的な態度を取るようになった。

完全に自分がアラッドの力を上回った。そう確信した。


しかし、アラッドは剣技のスキルを得たドラングは怖いと一ミリも思わなかった。


アラッドは糸というエクストラスキルが無能ではないと知っていた。

そして……父であるフールと、実母であるアリサと騎士団の数名だけはもしかしたらと、糸に秘められた可能性に気付いていた。


糸……一般的に見れば、布と布とを縫い付けて何かを作る。

それだけの道具にしか思わないだろう……だが、荒事に慣れている者たちは糸という武器が殺しに使われることを知っていた。


「……やっぱりな」


前世ではそれなりにバトル漫画やライトノベルを読んでいたので、武器には詳しい。

アラッドは誕生日に糸のエクストラスキル得てから、日々の訓練に糸の扱いを向上させる項目を加えた。


現在アラッドが屋敷の庭で使用したスキル技はスレッドサークル。

糸の円斬は綺麗に草を刈り取った。


「これはかなり使えるな……うん、そろそろ戦ってみたいな。モンスターと」


自分に大きな力がある。

それを知ったしまえば、当然それを試したくなってしまう。


(糸で使えるスキル技は、正直人に使うものじゃない。いや、使えるものもあるけど……どちらかと言えば、やっぱり暗殺や殺す系の技だからな)


それでも、いったいどれほどの効果をもつのか知りたい。


(こっそり屋敷を抜けて街を抜けたら……って無理か。仮に抜け出せたとしても、超心配される。いや、アリサ母さんだけは流石私の息子だ!! って褒めるか?)


元冒険者だけあって、アリサには少々大雑把なところがある。

なので本当にアラッドが屋敷を抜けて街を飛び出し、森の中でモンスターを狩っても多少怒りはするが、七割は褒める。


だが、フールは確実に怒る。

その光景が目に見えているので、馬鹿な真似はしない。


(……正直、低ランクのモンスターであれば負けない筈。身体能力はまだ五歳児だからしょぼいけど、身体強化が使える。剣技も習得している……魔法だって一応使える)


五歳の誕生日に糸という良く分からないエクストラスキルを得た後も、アラッドの将来に期待している者が多い。


そんな状況が続いていれば……当然、面白く無いと感じる者がいる。


「おい、アラッド!! こんなところで何やってるんだよ、サボりか!!!!」


「……声がデカいうるさい。お前こそ、こんなところで何してるんだよ、ドラング」


そう、パーシブル家の四男……ドラングにとってその状況は面白く無い。

自分は五歳の誕生日の日に剣技のスキルを得た。


自身の父も五歳の誕生日に剣技を得て、若い頃には国に仕える第一騎士団の副騎士団長まで上り詰めた。

そんな父と同じ才能を手に入れた。


もう……自分がアラッドより下である筈がない。

ただ、周囲の者たちはそう思っていない。

アラッドは糸というスキルを得てからも、日々の鍛錬を怠ることはない。


故に、家に仕える者たちからの期待はドラングよりも大きい。

フールも態度には出していないが、ドラングよりもアラッドの将来に期待している。


それらの現状をどうやって覆せばいいのか……答えは一つ。

一対一の勝負で勝てば良い。だたそれだけで現状が変わる……かもしれない。

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