第69話 先鋒粉砕!
[敵が来たよ!]
ギルドチャットを通して、二階バルコニーから敵軍の動きを監視していたジャスティスの警告が飛ぶ。
最上階にいる僕からも、敵の動きはよく見えた。
「ミライ、ジャスティス! 敵が門にたどりつく直前に、強めの魔法をぶちかまして! そのタイミングで、アオたち前衛三人組、頼みますね!」
[おうっ!]
[あいよ!]
[わかりました!]
前衛三人組のいつもと同じ頼もしい返事に、僕の緊張も少しほぐれる。
敵──三オンの部曲『
「今だ、魔法発射!!」
僕の掛け声から一拍おいて。
巨大な炎の鳥と火球がもつれ合うようにして、敵へ飛んでいく。
──ドゴォン!!
敵の突撃スピードもあって、先頭部分より少し後ろに
「アオっ!」
[はいっ、よーろこんでぇっ!!]
意味不明な掛け声と共に、門から駆け出していくアオ──ロザリーさんとクルーガーさんも後に続く。
門の内側に陣取ったギルティが、外側の広範囲に味方の攻撃力を高める陣を張った。
防御ではなく、攻撃を重視したのはアオの指示だったようだ。
僕の位置からも遠目に門のあたりを
[うぅおーりゃぁーーっ、と!]
大きな剣を振り下ろして、双子の炎の魔法で発生した黒煙ごと敵をなぎ払うアオの姿が見えた。
三オンプレイヤーが陣形を組めない状況ではT.S.O.プレイヤーが圧倒的に有利だ。
その有利を活かして、アオは一気に決めようと突っ込んでいく。
さらに、クルーガーさんが盾を構えたまま騎兵たちに突っ込んで敵の体勢を崩し、そこへ両手の斧を激しくぶんまわしながらロザリーさんが突っ込んでいく。
[ここは私が引き受けました、ロザリーさんとアオくんは一気に突っ込んでください]
[おうよ、任された! あたしらの家に攻め込んでくるなんざ、百年早いんだよってね!]
大軍をなぎ払う興奮みたいなものだろうか、なんか三人ともいつもよりテンションが高いような気がする。
魔法と連携した前衛の奇襲は成功したといって良いだろう。敵の騎兵部隊は混乱し、落馬した味方を掬い上げて後退をはじめている。
「アオ、敵が退いてく、一旦戻って」
その指示に、一旦不満の声を上げかけたアオだったが、思い直したかのようにすぐに了解と返事があった。
僕はホッと胸をなで下ろしてから、門の内側で待機している仲間に声をかける。
「サファイアさん、大丈夫だと思うけど、一応、敵の追撃に備えてください」
[はい、わかりました!]
アオたちが門の中へ撤退する間の援護として、サファイアさんに攻撃の奇跡を準備してもらっていたが、どうやら杞憂で終わりそうだ。
追撃を受けることなく、アオたち三人が門から前庭へと駆け込んできた。
[やったどー!]
高々と大剣を掲げ、勝ちどきを上げるアオの声に、
◇◆◇
「何人やられた!?」
「三人だね……」
女性兵士の一人が小さくため息をついた。
「負傷した兵も多くて、今、後方に回して治療してもらってる」
「ちぃっ……」
小さく舌打ちする覇鈴。三オンにはT.S.O.の神官のような回復術は存在しない。なので、体力の回復は薬などのアイテムに頼ることになる。だが、その物資も残りが
「油断したわ」
ゲーム内時間が進み、日は西へと傾きはじめている。
攻撃対象のギルドハウスは、湖に面した方向に門がある。そこを攻める場合、どうしても進軍経路が曲線になり、敵の遠距離攻撃を横から受けることになってしまう。しかも、敵は守りに徹して
「攻め方を変える?」
短く問いかけてくる女性兵士に対して、覇鈴は少し考え込む
「いや、さっきの反撃、攻撃力は高かったけど人数は少なかった。そこへつけこむことができれば……」
覇鈴は感情を素直に表に出すことが多いから誤解されがちだったが、合戦や攻城戦といった大規模戦闘において、冷静に状況を分析することもできた。
それではくては、戦争がメインコンテンツの三オンの中で、中規模とはいえ部曲──ギルドをまとめる存在にはなれない。
「数の有利って、けっこうバカにできないってこと、アイツらに教えてあげようか」
そう言って笑う覇鈴の表情に余裕が戻ってきていた。
「とりあえず、部隊の再編と連携の再確認を急ぐよ! 時間を稼がせてしまうと向こうが有利になるんだ。それに、プレイヤー同士の大規模戦闘に関しては、あっちは全くの素人なんだからね。そのあたりにつけこんで、もう一度攻勢を仕掛けて、一気にキメてやるんだ!」
覇鈴の檄に、他のプレイヤーたちも気勢を上げた。
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