第67話 開戦!

 ──翌日、十四時ちょうど。


 ギルドハウスの大広間で、メンバーの皆に見守られる中、僕は攻城戦こうじょうせん申し込みの手紙を大テーブルの上に広げた。そして、受諾じゅだくの欄に触れ、出てきた確認のボタンを押す。

 すると、回答期限までのカウントが消え、替わりに攻城戦開始までの時間が表示された。


「さて、いっちょ暴れてやりますか!」


 アオが景気よく両手を打ちつけた。

 アオとロザリーさん、それにクルーガーさんの前衛三人組はギルドハウスの外、正門前に待機する手はずになっている。状況を見て、正門から飛び出して敵軍への突撃攻撃をになう役だ。もともと、好戦的なメンバーということもあり、恐れよりも興奮が上回ってるっぽい。


「じゃ、私たちも持ち場につきますね」

「三オンの脳筋戦士たちをまとめて吹っ飛ばしてやるんだから!」


 ミライとジャスティスは正門を見渡せるギルドハウス二階のバルコニーへ、遠距離攻撃担当だ。

 そして、残りの中距離支援職のギルティ、回復役のサファイアさんとくーちゃんはギルドハウスと正門の間の前庭に。その護衛役としてイズミも同行する。


「それじゃ、みんな頼んだよ。とにかく死なないこと──この場合は敵の捕虜にならないことを最優先して。万が一の時は逃げ出したって構わないからね!」


 そうみんなに伝えてから、僕は指揮を執るために、ギルドハウスの最上階、屋根裏部屋から繋がるバルコニーへ移動した。

 最後の一人のぴーのは大広間に残って情報整理を担当する。以上が、事前の打ち合わせで決まった役割分担になる。


   ◇◆◇


 ──ちなみに僕たちは攻城戦の受諾を決めてから、アイテムの調達や装備の整備などを行いつつ、その合間を縫って作戦の検討もきちんと行っていた。

 その中心となったのは意外にもアオだった。


「防衛に専念するのは安全策になるかもだけど、三オンの場合、そうもいかないっぽいんだな」


 外の様子を一通り見終わった後、大広間にもどったアオは、ぴーのが集めてきてくれた情報の整理を一手に引き受けてくれたのだ。

 三オンやH.B.O.の融合によって、T.S.O.の仕様にもいくつか変化が見られている。おそらく、攻城戦の影響だと思うが、ギルドハウスにもさまざまな仕様がいつの間にか増えていた。

 一番目立つのが、ギルドハウスの屋根のてっぺんに掲げられたギルド旗である。風と旅人の意匠デザインで表されたWoZの紋章が描かれた緑色の旗が風に舞っている──ちなみに、紋章のデザインはサファイアさんだ。

 このギルド旗を敵に奪われれば、僕たちの負けである。屋根まで登られないまでも、弓矢で狙われて落とされたところを奪われたりすることもあるので、ギルドハウスの敷地内に突入されることは避けなければならない。

 とはいっても、ギルドハウスを囲む塀は細い丸太を組み合わせて作られた、とうてい防衛用の柵とはいえない代物なのだが、いつの間にか耐久力たいきゅうりょくというパラメーターがついていた。これは正門も同じで、門といっても扉のない、柵と柵の間の空間なのだが、ここも同じように耐久力が設定されていた。三オンの仕様を調べたところ、この耐久力がゼロになると、攻撃側が内部へ侵入できるようになるということだ。

 アオが大テーブルに表示されたギルドハウスの見取り図を指し示しながら作戦を提案していく。


「三オンの仕様だと、門を攻撃するのがセオリーらしい。塀を壊すこともできるらしいけど、それには兵器が必要らしいんだ。でも、さっき偵察してきた限りでは、そんな兵器の姿はなかった」


 また、防衛側である僕たちの人数は圧倒的に少ない。戦力を分散させる余裕がないということもある。


「一応、個々のキャラクターの強さとしては、俺たちT.S.O.プレイヤーが圧倒しているってことだけどな。だからといって、単独行動はできるだけ避けたいところだ」


 アオの言葉に僕も頷く。


「みくるんさんからも聞いたけど、レベル最大マックスのT.S.O.プレイヤーなら、十人以上の敵を圧倒できるらしいよ。でも、注意しないといけないのは、三オンの陣形っていう仕様らしい」


 三オンの仕様に陣形というものがあるということをぴーのが調べてきてくれた。と、いっても、公式のオンラインマニュアルでも公開されている情報とのことだったが。

 それで、その陣形とは、五人以上のプレイヤーが互いに連携行動を行うことで発動する能力上昇バフスキルみたいなもので、陣形を組まれると、T.S.O.プレイヤー側の優位があっさりと崩れてしまうことになる。


「っていうわけなので、俺たちとしては陣形、連携を阻止するために、敵を掻き回し続けなければいけないってことだ。でもって、時間切れ、判定勝ちを狙う」


 アオがビシッと親指を立ててニヤリと笑う。

 ロザリーさんが肩をすくめた。


「あまりカッコイイとは言えないけど、そのあたりが現実的な落としどころなんだろうね」

「幸い、このギルドハウスの門は正面の一箇所だけですしね、そこを集中して確保するだけなら、なんとかなるかもですね」


 クルーガーさんも納得したように頷いた。


   ◇◆◇

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