第51話 とある中堅ギルドマスターの暴走
とある中堅攻略ギルドの一つを束ねるネコミミ少女が、十三層の氷の城の中を仲間と共に駆け抜けていく。
彼女は三大ギルドがボス部屋を見つけたという情報をゲットしてから、すぐに行動を開始した。
ちょうどリアルの仕事が定時で終わったタイミングだった。ゲーム内にいたギルドメンバーからの報告を受け、同僚からの飲みの誘いも断って家に直行した。焦る姿を不審がる家族の問いかけを適当にあしらって、着替えもせずに部屋に
すでにゲーム内に集まっていたメンバーの他に、事前に声をかけていた複数の仲間たちとも合流しつつ、
ボスキャラ発見の報に騒然としているキャンプ地を抜け、目立たないようにボス部屋への道へと向かう。
途中、奥から戻ってきた三大ギルドのプレイヤーたちの一団に遭遇、身を隠してやり過ごす。
ボス部屋を見つけた三大ギルドのプレイヤーたちは一旦撤退し、その後、
ずっと抱いていた疑念──最初にクリアしたプレイヤーだけが助かり、それ以外の全員はミッション失敗、死亡したときと同じペナルティを科され、リアルの情報流出という
とりあえずT.S.O.に実装されているボス戦の中で、一番多いタイプのボス戦構成である二十四人を揃えるつもりだった。だが、急なことなので連絡がつかないプレイヤーもいて、結局集まれたのは二十二名。こればかりはしかたない。間に合わなかったヤツはアンラッキーだったというだけだと、彼女は割り切る。
目的地への道はわかりやすかった。キャンプ地でマップ情報をシェアしてもらえたこともあるが、ところどころのポイントとなる場所には経路確保のため、三大ギルドに所属するパーティたちが待機していたので目印にもなった。
ボス部屋が見つかったいうことを聞いて
ネコミミ少女の仲間たちの中には、この場に及んで腰が引けているプレイヤーもいた。だが、ボス部屋に近づくにつれて覚悟を決めたようだ。ネコミミ少女の「何もしないでゲームオーバーを迎えるよりは、自分の手でクリアできる可能性にかけるべき」という主張を否定しきれなかったのだ。
そして、ついにボス部屋の扉が彼女ら一行の視界に入る。
部屋の前の広間には扉の程近くにパーティが一つ。三大攻略ギルドの一員だろうか。おそらく場所の確保、モンスターの襲撃への備えと、他のパーティが抜け駆けしないための見張り役といったところだろう。他に少し遠巻きにするようにボス部屋の扉を眺めている数人のパーティが三組、こちらは単純に興味本位だけでここに来ているミーハーな団体か。
「みんな、ここは私に任せて」
ネコミミ少女が後ろに続く仲間たちにそっと声をかけて、扉へと足を向けた。
「ねぇー ちょっと聞きたいんだけどぉ、そこがボス部屋ってことでいいのかなー?」
◇◆◇
双子と年少組が疲れ切っておとなしくなってからしばらく経った頃。
「ねぇー ちょっと聞きたいんだけどぉ、そこがボス部屋ってことでいいのかなー?」
不意に現れた二十人くらいのパーティ、その先頭にいるネコミミ少女が声をかけてくる。パステル調の色彩で統一した装備で、可愛さを前面に押し出した雰囲気を強調している。職業はぱっと見じゃわからないけど杖っぽいモノを持ってるから魔法使い系だろうと想像できた。
三大ギルドがボス部屋を見つけたと僕たちが知ってから、結構時間が経った。他のプレイヤーにも、だいぶ知れ渡っているはずだ。
周りにいる他のパーティたちと同じだ。おそらく物見遊山的なノリでやってきたのだろう。
「そうですよ、もう少ししたら三大ギルド共同の偵察部隊が戻ってくるので、そこから本格的に攻略開始ですねー」
僕が代表して答えると、ネコミミ少女が身体ごと向き直ってくる。
「そうなんだ。ちなみにボス部屋の扉って、もう開けた人いるの?」
その問いかけに僕はロザリーさん、サファイアさんと顔を見合わせる。
そう言えば、そのあたりは聞いていなかった。
「そのあたりもひっくるめて偵察部隊に任せるんだろう?」
「そうですね、そもそも扉の仕様もわかりませんし、触っただけでバトルフィールドへ転移してしまう可能性もありますし」
言われてみればその通りだ。何も考えずに扉の側に陣取っていたが、少し距離を取っておいた方が良いかもしれない。
「ふーん、ってことはまだ誰も開けようとしてないってことなんだね!」
突然だった。近くまで来ていたネコミミ少女が僕に身体ごとぶつかってきたのだ。
「うわあっ!?」
予想外のことに不様によろける僕。サファイアさんとロザリーさんが支えてくれなかったら、そのまま吹っ飛んでいたかも。
そんな僕を無視して、ネコミミ少女は背後の仲間たちに声をかける。
「いくよっ、みんなっ!!」
「おーーーっ!!」
「ちょっとアンタたち、待ちなさい! 何が起こるかわからな……」
ロザリーさんが静止の声を上げるが、誰も聞こうとはしない。
ネコミミ少女を先頭に扉の前へとたどり着くと、躊躇なく大きな扉を押し開けようと数人が扉へと体当たりをする。
最初は扉はビクともせず、カギがかかっていて開けるための条件もあるのではないかと思えた。だが、そんなことはお構いなしと、ネコミミ少女たちが次から次へとがむしゃらに扉にぶつかっていくうちに、ついに重い音を立てて開き始めたのだ。
「今よっ!!」
人が数人並んで入れるくらいの幅まで開いたところで、ネコミミ少女がボス部屋の中へと飛び込む、つづけて総勢二十二人が室内へと駆け込んでいった。ギルティが冷静に人数を数えていてくれたのだ。
僕は慌てて扉の近くへと駆け寄った。
一度動き始めた扉はそのままゆっくりと室内へと開き、薄暗かった部屋の中に一つ、また一つと大きな青い炎が灯り始めた。
部屋に入る手前でとどまる僕たちの視線の先で、ネコミミ少女の一行が戸惑いを隠せない様子でとどまっている。
中はとてつもなく広い円形のホールになっていた。十三層入口のキャンプ地に集まっているプレイヤー全員が入って戦闘を行っても、余裕があるくらいの広さがある。磨かれた黒曜石の床の上に設置された大きな灯火台で青い炎が激しく燃えあがった。だが、壁から天井はドーム状になっており、上の方は光が届かなくて視認できない。
一方で、こちら側から順番に灯火台に順番に青い炎が灯っていくうちに、巨大な石像のようなモノの姿が闇の中から浮き上がってきた。
「なに、アレ、ちょーキモいンですけどっ!?」
ジャスティスが悲鳴めいた声を上げる。
普段からはしゃいだり叫んだり賑やかなのが当たり前なのだが、この時ばかりは、滅多に聞くことがない珍しく心底怯えたような叫び声だった。
まあ、その気持ちもわからなくはない。青い炎に照らされて不気味に浮き上がる石像は、下半身が無数の巨大な触手に覆われ、腰から上は毛むくじゃら。さらには、上半身から突き出る太い六本の腕。それぞれの腕には刀や斧、槍などの禍々しいデザインの武器が握られている。そして、頭の部分には、黒山羊を模した悪魔のような顔が三つ。
「あれが
いつもは
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