第35話 ただいま探索中
足を進めるに従って、天井から落ちる水滴の音が増え、さらに複数の
今までの
魔術士ジャスティスが無邪気な歓声を上げる。
「ほぇー スゴくキレイなところにでちゃったねー」
「こんな状況じゃなかったら、ゆっくりしたいところなのにね」
いつもは天然な双子の妹へのツッコミ役、精霊術士ミライの声も少し弾んでいるようだ。
先行する三月ウサギとサウザンアイズ、梁山泊の三ギルドは、一昨日の段階でこのエリアへと突入している。そのため、ダンジョン内のキャラクター達をランダムで実況しているネット動画でも、すでにこの美しい光景が配信されているはずだ。
ただ、僕たちはそういった情報を楽しむ立場になく、むしろ発信する立場。
「さっそくのお出迎えか!」
剣を抜きながらアオが脇を駆け抜け、ファイティングポーズをとったイズミがネコミミをピクピク動かしながら、僕を
その動きに反応したのか、左右の滝の中から半魚人……というより魚に人間の脚と手が生えたようなモンスターが複数匹飛び出してくる。
「わたし、ちょっと苦手かも……」
少し怯んだのか、素の性格がでてしまったクルーガーさんだったが、覚悟を決めて先頭へと突撃し、盾を掲げて敵の注意を引きつける。
続くようにオノを振りかぶったロザリーさんが、迫り来る何匹かの半魚人に体ごとぶつかっていく。
「なんか、昔読んだマンガにこんなのがいたような気がする……よっ!!」
笑いながら第一陣を蹴散らす頼もしい女戦士殿。この二人のコンビネーションによる戦闘開始はうちのパーティの定番とも言える。
「三方向から近づいてくる! 前衛、それぞれお願い!」
僕は声を出しながら少し後退し、視界を広くとる。
アオ、クルーガーさん、ロザリーさんの前衛組が前線を構築し、中央にギルティが陣取り、結界を張る。どうやら、水属性の攻撃に対応した防御陣を構築したようだ、判断は悪くない。
「そーれ、いっくよー!」
ギルティの背中越しに、ジャスティスが黒い稲妻を放って半魚人たちを捉える。
──シギャァァァ!!
ダメージを受けたモンスター達が距離を取り、一部の半魚人達は滝の中へと撤退していった。
「深追いしないで、様子を見て!」
僕がそう叫ぶ前に、前衛の皆も慎重に陣形を整え直していた。このメンバーたちとのつきあいは長い。お互いだいたいの考えを予測できるが、それでもリーダー的な立場にいる身としては、わかっていても指示を出さなければならない。
ギルドを立ち上げたばかりの頃は指示ミスに対する恐れや、気恥ずかしさもあったのだが、今ではもうだいぶ慣れた。
ふと、
「アリオットさんっ!!」
少年の声に意識が現実、いやゲーム内に引き戻される。
「!?」
視界が激しく回転し、自分が地面に転がったことに気がついた。
「てやーっ!!」
視界の片隅で獣人の少年が高く飛び上がりながら拳を突き上げ、複数の半魚人をまとめて吹っ飛ばしている。
このタイミングで、僕は状況を理解した。
──上方の滝から僕を狙って飛び出してきたモンスター。
──ぼうっとしていた僕を逃がすために体ごと体当たりしてきたくーちゃん。
──入れ違いに空中攻撃で敵を撃退するイズミ。
「ちょっと、油断しちゃダメじゃない!」
「ご、ゴメン」
身体の上に覆い被さったまま、眼前でまくし立てるくーちゃんをなだめつつ、起き上がる。
完全に油断してた、防御力が低く、回復役もいる後衛を狙う敵はたくさんいる。中には指示を出している人間を把握して、攻撃してくる思考を持つ敵もいる。とにもかくにも、今はミスは許されない状況なのだ。僕はあらためて目の前の状況に集中する。
正直なところ、僕自身もパフォーマンスを出し切れていない感はある。学園の方も入学直後の導入期間が終わり、実習を中心に本格的な内容に入りつつある。さらにキツイのが体育実習だった。自衛隊の訓練に準じた内容になっていて、中学まで運動部でバリバリ実績を上げていた常盤さんでさえ全力で取り組んでなんとかこなせるレベルなのだ。僕なんかはついてくのも厳しい内容だし、さらに体力面で劣るルームメイトの陵慈なんかは、寮の部屋──プレイしている僕の斜め後ろのベッドで息も絶え絶えの態で睡眠に落ちている。
もっとも、動けなくなった陵慈を寮までおぶって帰ってきたことも、僕の体力低下の原因の一つだけど。
一方で、T.S.O.内の進捗もお世辞にも上手くいっているとは言えなかったりする。
数日で七層まで到達できた時は、最深層である十三層までそれほど時間をかけずに到達できると思っていた。だが、その後ダンジョンの攻略難度が急激に上がり、この九層にたどり着くまでに結局一ヶ月もかかってしまっていたのだ。
「よっしゃ! これでラストォォォッ!!」
アオが勢いよく振り下ろした剣から衝撃波が飛び、半魚人が両断されて水面に沈んでいく。さらにロザリーさんやクルーガーさんの周りに倒れていたモンスター達も光となって消えていった。
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